プロジェクト背景
被災エリアの諸課題(2011年3月末)
東日本大震災は2011年3月11日に発災しましたが、被害が甚大かつ広域だったこともあり、被災者にとって復興への第一歩を踏み出す拠点となる「仮設住宅」の提供にも長い時間を要しました。
さらに、「一般的なプレハブ仮設では東北の冬は越せない」という断熱性能の低さに対する懸念が当初からあり、その声を受けて宮城県が行った追加工事に関しても、日程の遅れや施工内容に多くの住民が不満を募らせました。
また、集団移転の候補地の選定や造成には多くの時間がかかることが予見され、仮設住宅居居住期間の長期化が見込まれています。その点でも、少しでも健康で快適に暮らせる仮設住宅での環境づくりが2011年後半の最重要の課題の一つになっていました。
そこで私たちは、関西を中心とする建築家チーム、建築学生、多くのボランティアの皆さまと連携し、仮設住宅の総合的な環境改善を実施するプロジェクトを約2年に渡り実施しました。
【写真下】左上:仮設住宅窓の結露。右上:玄関ドア裏のカビ(冬期間の結露の影響によるカビの発生)。左下:県の断熱追加工事
アクション
これから、長期間生活を送らざるを得ない仮設住宅の生活空間を少しでも快適かつ東北の環境に順応したものにできるかは、地域の復興や住民の心身の健康にとって非常に重要な課題でした。そこで私たちは当時大きな問題になっていた「厳しい東北の冬に合ってない仮設住宅が多い」という声を受け、「仮設住宅の住環境改善」活動について計画と提案を行い、「三井物産環境基金」から約2年間の活動資金を得ることができました。
さらに、被災で住居が不足する中でも、気仙沼市本吉町の各自治会のご協力のおかげで、活動拠点となる場所も構えることができました。
仮設住宅の住環境改善活動の方針としては、事前調査を行った上で、
①住環境の性能が低い(特に断熱性能の低い)プレハブ団地を対象にする(ブレハブ住宅の住環境の底上げ、団地間の住環境の差を埋める)
②できるだけ入手しやすい材料を使いボランティアでも施工できるように工夫する(適正技術的なアプローチ)
③活動で得られたノウハウや成果をできるだけ広く共有する(今後の災害時での活用、仮設住宅のあり方への提言)
の3つの方針を定めて、活動を進めました。
2011年秋~冬の活動開始時は、「冬対策/結露対策」のような最低限の住環境を整えるというアプローチを行い、2012年以降は、仮設住宅で少しでも楽しく便利に暮らせるアイデアの実証試験、住民の皆さまと交流を促進するような活動も合わせて実施しました。
これらの知見は、今後の仮設住宅でも活用可能という判断から、当ページで可能な限り情報を掲載し、共有したいと思います。
(※当サイトに掲載している写真、論文や調査記録等の無断転載はお断りしております。あくまでも防災学習や災害対応時での使用に限定させていただきます)
パートナー
パルシック
酪農学園大学
実施プロジェクト報告(2012年~2014年9月)
適正技術による内部断熱改善メニュー
2011年9月上旬から、建築学の専門家と全国から集まったのべ500名以上のボランティア、資材メーカーと協働しながら、「より安く、できるだけ簡単にできる仮設住宅の住環境改善(適正技術による住環境改善)」をテーマに、プロジェクトを進めました。
断熱改善等の寒さ対策の支援対象者は、専門家の調査の上、本吉町内の14の仮設団地の内、断熱性能の低い10団地とし、その中から希望のあった220あまりの世帯に対し、資材提供(一部世帯は資材提供のみ)と施工支援を行いました。
作業は、宮城県の追加断熱工事が進む中での実施となったため、施工メニューの変更等もありましたが、寒さ・結露対策を中心に、屋外の寒さを内部に伝える鉄柱の断熱テープ貼り、結露がひどい窓への気泡緩衝材(プチプチシート)貼り、冷風が入り込む床と壁の隙間塞ぎ等のメニューを、当会の現地スタッフとボランティアの皆さんの手によって施工しました。
施工時は、お家に長時間お邪魔することになり、自然に居住者の方との会話や交流も生まれ、現在も居住者の方と連絡を取り合っているボランティア参加者もいます。
その後、効果検証の一環としてアンケート調査を実施し、支援受入れ側から評価をいただきましたが、寒さ対策の支援は、一定程度満足感を持って受け入れられたのではないかと判断しています。また、対象者を本吉町全域の仮設住宅にしたことも、支援の偏りを防ぐという点で、行政からの高い信頼に繋がりました。
東日本大震災のプレハブ仮設住宅で問題が深刻化した「仮設の冬対策」について、できるだけ簡単で安い方法を専門家と考案し、現場で改善を重ねてマニュアル化しました
場所 | 気仙沼市本吉町内の仮設住宅11地区(291戸) |
参加者 | 建築専門家 建築学生 ボランティア |
活動キーワード | 仮設住宅地区での寒さ対策(断熱性能の向上) |
年 | 2011年秋~2012年冬 |
パートナー | 京都工芸繊維大学 阪田弘一研究室 大阪大学 甲谷寿史研究室 明石高専 平石年弘研究室 前田 昌弘(京都大学工学部建築学科) |
【メディア掲載】
河北新報「民間支援 行政を補完」/2011年10月20日
北海道新聞「仮設補強 道産子が活躍」/2011年12月11日
建築知識「前へ!東日本大震災 再興への道」/2011年12月号
仮設住宅玄関への庇(ひさし)の設置
小泉仮設住宅地区の集会所、及び、3カ所の住居に木材と波板で作った庇の試験設置を行いました。庇を設置することで、雨の吹き入れの防止、日差しの緩和、外収納の設置スペースの増加効果に加え、人の交流を促す効果も見込まれます。仮設住宅地区によっては、庇を標準装備している地区もありました。庇の設置は、一定の施工技術が必要なこと、仮設住宅ごとに仕様が異なる状況などがあり、マニュアル化までには至らず試験設置のみとなりました。
場所 | 気仙沼市本吉町小泉仮設住宅地区 |
参加者 | 建築学生 ボランティア |
活動キーワード | 仮設住宅での庇の設置 |
年 | 2011年夏 |
パートナー | 魚谷繁礼 建築研究所 |
【メディア掲載】神戸新聞「仮設を緑化 夏快適に」/2012年5月5日
設住宅への地元材ウッドデッキの設置
2013年の仮設住宅の住環境改善プロジェクトは、共有スペースの充実化を目指し、地元の森林組合と連携し、小泉中学校仮設住宅と学校グランドの境界に当たるスペースに、地元の杉材を利用したウッドデッキを製作しました。
敷地の樹木を生かしたデザインにしたことで、日常の景色にもすぐになじみ、日中には子どもや高齢者が自然に足を運びます。また、テニスコートに隣接するため、部活の様子を眺めることもでき、ウッドデッキのおかげで、仮設住宅の暮らしと学校の暮らしが少し近づいたような効果があったようです。
ウッドデッキに加え、京都工芸繊維大学 多田羅景太研究室のご協力を得て、子どもでも組み立てられるオリジナルの地元材の椅子とテーブルを製作し、地域のお祭りなどでも活用していただきました。
場所 | 小泉仮設住宅地区 |
参加者 | 建築学生 ボランティア |
活動キーワード | 仮設住宅地区での地元材のウッドデッキ設置 |
年 | 2013年春 |
パートナー | 京都工芸繊維大学 阪田弘一研究室 京都工芸繊維大学 多田羅景太研究室 明石高専 平石年弘研究室 |
【メディア掲載】 京都新聞掲載記事「気仙沼の仮設に交流のデッキ」/2013年6月14日
DIYによる内部収納および外部収納の改善
仮設住宅での暮らしでは、いかに限りあるスペースで無駄なく収納するかという点も快適性に考える上で、欠かせない視点です。
私たちは、DIYやボランティア支援という視点から、ジョイントと紙管を組み合わせたオリジナル収納について検討を行い、仮設住宅の収納に合わせた4タイプの収納デザイン案を考案しました。
なお、内部収納支援については、仮設住宅の入居前に一斉に行うのが最も適しており、支援タイミングの調整が重要になる支援メニューとなります。また、強度の点でも課題がありました。特に湿気が高い時期なども考慮し、紙管の強度改善(特に紙管の強度や口径の調整)が重要になりそうです。一方で、限られた収納スペースを有効活用する視点、居住者が仮設を住みこなしていこうとする関係性の視点、退去時に処分しやすい等の利点があるため、仮設収納をDIYするという視点は、重要なテーマであると考えています。
外部収納についても、屋外の収納スペースやプランターなどの設置を目指し、塩ビ管を使用したDIY収納を考案しました。仮設住宅の外空間をより快適にすることは価値のある支援メニューであるものの、塩ビ施工の精度が要求されること(細い口径の塩ビ管は歪みが発生しやすい)、同じく強度の問題等があり、デザイン考案と試験設置に留まりましたが、京都工芸繊維大学の学生らが考案してくれたデザイン案については広く共有する意義があると考え、データを掲載することとしました。
場所 | 仮設住宅地区 |
参加者 | 仮設住宅で暮らす皆さま ボランティア |
活動キーワード | 仮設住宅内外でスペースの有効活用に資するDIY収納づくり |
年 | 2012年~ |
パートナー | 京都工芸繊維大学 阪田弘一研究室 石川 達也 小柳元樹(デザイン施工管理) スペーシア株式会社(収納ジョイント) 田中紙管株式会社(収納紙管) |
紙管とジョイントを使って、有効スペースを活用できる4種類の押入れ収納のフレームを考案しました。
紙管とジョイントを使って、有効スペースを活用できる4種類の押入れ収納のフレームを考案しました。
ゴミステーションの改善
仮設住宅のごみステーションの敷地内にあるごみステーションは、単管などを組んだだけのもので、利便性が低く、カラス被害などが発生し、衛生上の問題になっていました。そこで、災害ごみの廃材(柱や梁などの角材)と波板を利用して、できるだけ簡易的な方法でごみステーションを改善する方法を模索しました。ごみステーションの改善は、比較的簡単にできる建築支援なので、仮設住宅支援の1st stepにもよいメニューであると思います。
場所 | 本吉町仮設住宅地区 |
参加者 | ボランティア |
活動キーワード | 仮設住宅地区でのごみステーションの改善 |
年 | 2011年冬 |
パートナー | 酪農学園大学学生ネットワーク(酪ネット) 池田尚弘(元東京農業大学講師) |
ごみ集積場改善プロジェクト~仮設住宅地区の共有スペースへのアプローチ~
仮設住宅地区のごみステーションの改善を廃材を活用して、学生ボランティアが中心に実施しました。(報告者:駐在員/大崎 美佳)
※ゴミステーションの形は、設計上の規格は特にないようで、バリエーションがありました。そのため、設計図は役立たないかもしれませんが、ゴミステーション改善のエッセンスがお伝えできるように報告書データを共有します。
共同農園の開設と運営
当プロジェクトでは、仮設住宅に暮らす方を対象として、町の中心分に土地を借り受け、10区画(1区画:7m×4m)の共同農園をボランティアの手によって整備しました。この土地は、畑の土ではなく、住宅用の基礎に使われる盛り土がされており、農園として整備するには、石を取り除き、土壌改良し、2カ月ほどかけて農園の整備が進みました。
10区画中7区画が参加者に貸し出され、作物の栽培がスタート(使われない区画は団体側で栽培しました)。草刈りや貯水タンクへの水の補給などで、多くのボランティアが共同農園に足を運んでくれ、そこで参加者や近隣住民のみなさんと立ち話をしたり、作業をしたりする光景も多くみられました。
2012年秋に、プロジェクト評価の一環として、参加者のみなさんにヒアリング調査を行った際には、「共同農園が外に出るきっかけになった」「共同農園が体を動かす機会になった」「交流やコミュニケーションを取るきっかけになった」という声があり、元々家の周りで畑をしていた人に、自分のやり方で農作業をしてもらい、収穫した作物を人に分けるといった被災前から当たり前にしていた「自分で育てた野菜を食べる&人にお裾分けをする文化」を多少なりとも取り戻してもらうきっかけになったのではないかと考えています。
場所 | 気仙沼市本吉町仮設住宅地区 |
活動キーワード | 仮設住宅居住者向けの共同農園の実施 |
年 | 2012年春~ |
パートナー | 酪農学園大学(酪ネット) 明石高専 その他多数のボランティアの皆さま 赤い羽根共同募金会(活動助成) |
共同農園プロジェクト~被災エリアでの農園整備の実践を通して~
駐在員の堀池が中心に取り組んだ被災エリアでの農園整備事業の報告です。その試行錯誤の日々に、農園支援のエッセンスが含まれている内容です。(報告者:駐在員/大堀池 舞子)
調査研究成果
当活動の特徴は、実務者と研究者が同じ目標を目指しつつ、研究者自身もアクションリサーチとして積極的にボランティアとの連携支援活動に加わっていただきました。その中で、建築技術(建築学、環境工学)のマニュアル化や関係者へのインタービュー(コミュニティ論)を通して、技術の記録や現地の皆さまの受け入れ支援の評価について分析を行いました。これらの知見を今後の防災や効率的な支援の一助となるように当サイトを作成し、成果を共有いたします。
当活動「仮設住宅の住環境改善活動」を通して、プレハブ仮設の断熱改善を中心とした支援メニューの方法と効果を技術的な側面から記録・検証した研究
主査:阪田弘一 山隈直人 前田昌弘 魚谷繁礼
「津波被災者への居住支援と”信頼構築”の関係に関する研究~気仙沼市本吉町における実践を通じて」
当活動「仮設住宅の住環境改善活動」の中で、多くの団体やボランティアが関わった断熱支援活動の情報プロセスを調査し、「信頼構築」の観点から検証した研究(住総研研究選奨受賞研究)
主査:前田昌弘 石川直人 伊藤俊介
※研究や調査記録については活動終了時のもので、その後、改訂されているものもあります。詳細については各研究の主査にお問合せください。
毎日忙しい日々でしたが、沢山の事を学ぶことができ、充実した時間でした。
参加していただいた皆さま、地域の皆さま、ありがとうございました。