プロジェクト背景(障がい者分野)

視覚障がい者に関わる諸課題

 「障がい」と「貧困」は、密接に関係している。国連開発計画(UNDP)、世界保健機関(WHO)によると、「世界の人口の15%が障がい者であり、さらにその8割は開発途上国に住んでいる」と公表されています。当会の活動国であるスリランカでは、約2000万人の国民に対して約40万人が、視覚に何かしらの障がい(政府発表では、そのうち7-15万人が全盲)があるとされ、視覚障がいに至る原因については、緑内障、白内障、網膜剥離等の疾病、内戦での負傷、メガネが買えないなど適切なケア不足も要因としてあげられます。
 スリランカの視覚障がい者は、都市部に関しては盲学校が整備され、小学校から高校まで教育を受けることができるものの、就職に関しては多くの障壁があります。また、政府は全公務員数の3%を障がい者の雇用に充てるという努力目標を制定し、雇用面の改善は試みられているものの、民間セクターに関しては雇用がほとんど進んでいないというのが現状です。特に視覚障がい者は、「安定的な雇用に就く事が困難な状態(仕事がある視覚障がい者は1%以下という報告もあり、他の障がいに比べ雇用率が低い状態)」に長年置かれており、「視覚障がい者が一人でもいる世帯の88%が、1日の収入が2ドル以下の貧困層だと推計されています(※2011年当時)」。また、施しを与える事を宗教的な徳とする価値観を持つ人も多く、物乞いでそれなりの収入を得ている者もおり、結果として就業する意欲を阻害する一因にもなっています。また仮に仕事があっても、工場などでの単純な組立工、クラフトワークなどの職種が多く、障がいや個々人の特性に配慮した専門的な仕事に就くことは難しく、障がい当事者や家族がそもそも働くことを諦めているケースも多く見られます。
 一方、他国の就業状況に目を転じると、視覚障がい者が、マッサージ師(日本の場合は「あはき師」:あん摩マッサージ師、鍼師、灸師の総称)として社会の中で自立して働くという文化は、日本はもとよりインドやネパールなどの南アジアの国でも、幅広く定着しています。現在日本では、指先の感覚が鋭敏であるという視覚障がい者の特性を生かし、あはき師として働いている視覚障がい者が、減少傾向にはあるものの「およそ3人に1人(視覚障害者就業者数81000人のうち、24000人があはき業に従事)」になっています。
 スリランカ政府も一部の障がい者に職業訓練などの公的なサポートを行っていますが、訓練後に雇用の受け皿になる受け入れ企業が少ない事に加え、社会的・文化的な偏見も根強く、障がい者雇用が進んでいないのが現状でした。社会福祉省所管の国立障がい者職業訓練校(シードゥワ職業訓練校/SVTC)では、2009年より講師1名の下、視覚障がい者を対象とした「マッサージ師養成コース(9か月間研修コース)」を始めましたが、2010年の時点で4名の視覚障がい者がコースを修了したものの、就職受け入れ先が全く見つからない状況でした。
 これらの課題について、政府機関や専門家、当事者団体からの相談を受け、検討を重ねた結果、雇用の場の整備が必要という結論に至りました。そこで当会が中心となり、「視覚障がい者が指圧師として働く場」としてスリランカ初の指圧マッサージサロンをコロンボ市の中心部に開設し、「付加価値の高い指圧マッサージの提供(医学生理学に裏付けられた施術と顧客サービス)」と共に、「指圧技術の訓練」と「視覚障がい者の経済的自立や参加を進める社会づくり」を行うソーシャルカンパニー「トゥサーレ・トーキングハンズ」が誕生しました。

※『トゥサーレ』はアイヌ語の「癒す」から名付けました。『Talking Hands』は、「熟練した施術者は、クライアントの症状分析と必要な施術を手を介した対話の中で行う」いう笹田三郎氏(指圧技術指導者/当会アドバイザー)のアイデアを受けて命名。

活動のキーワード

  • 新たな職域(指圧マッサージ師)の創出
  • 視覚障がい者が社会的・経済的な自立を可能にするための事業計画とブランド化
  • 指圧マッサージの健康増進効果や障がい者雇用に関する理解の促進

プロジェクト目標

 2011年から笹田氏が中心となり、日本人の指圧技術指導の専門家が1年に2-3回の頻度でスリランカに渡航し、「指圧実技の指導」、「生理学の基礎知識」、「指圧師としての心構え」などをレクチャーすることで、指圧技術やサービスの向上と共に、指圧サロン「Thusare Talking Hands(トゥサーレ トーキング ハンズ)」の知名度向上に努めてきました。途中、指圧師の大量離反など紆余曲折はありましたが、施術後の顧客の声(主に海外からの観光客、日本人駐在員と家族、コロンボ市近郊に住む比較的裕福な層が多い)やTripAdvisorなどのコメントからも、一定以上の高い評価を得られるまでになりました。 

【指圧師養成システムの整備(2nd Phase)】

 指圧技術の基礎的な指導については、8年を超える取組の中で一定の技術移転が行われ、指導のノウハウも蓄積することができました。さらなるステップとして、指圧師を目指す視覚障がい者のすそ野をさらに広げ、より高いレベルの技術力定着を目指すために、「より効率的に指圧師を養成するシステムづくり」が必要となります。また、中長期的な視点から、安定的かつ自律的な育成体制を構築するための「指導者人材の育成」にも着手する必要があります。


【指圧サロン「Thusare Talking Hands(トゥサーレ トーキング ハンズ)」の運営】

 指圧サロンでの日々の顧客への施術に加え、「オフィスセラピー(企業の福利厚生サービスとして指圧師を職場に派遣するサービス)」、「グッドマーケットでのプロモーション(週一度開催の青空市場での指圧プロモーションサービス)」等も行い、指圧施術のチャンネル、連携先を増やしてきました。2019年末には10名の指圧師を雇用できるまでになり、2店舗目開店など事業発展してきたものの、2020年3月からのコロナウイルス感染拡大によるロックダウンや観光客の受け入れ禁止等により顧客が激減し、政府からの支援などもない中で縮小営業を余儀なくされています。
 そのような逆境下ではあるものの、まずはミニマムの規模でも日々経営を続けながら、実技や語学トレーニングのテキストやカリキュラム化を整備し、指圧師の学習環境を整え、さらに指圧や指圧師に対する社会的な認知を高め、Thusare Talking Handsのブランド力を高めるような連携やプロモーションを模索する必要があります。

アクション

【指圧師養成とトレーニング内容の整備】

1.より質の高い指圧師養成システムの整備
1-a: 基礎テキスト(医学・生理学)、訓練カリキュラムの策定、修了時評価指標の整備
1-b: 英語学習と接客トレーニング
1-c: 政府職業訓練機関(国立シードゥワ障がい者職業訓練校)への指導方法改善サポート
1-d: オンライン学習機能の強化(リモートによる語学・生理学の講義、音声テキストの整備)

2. 指圧トレーニングの実施
2-a: 日本人専門家を派遣し、技術指導を行う(一部リモート対応)
2-b: 3段階の資格修了テストを実施する(半期毎に実施)

【指圧サロン『トゥサーレ・トーキングハンズ(Thusare Talking Hands)』の運営】

3.指圧サロンやオフィスセラピーでの施術サービス提供
3-a: 感染防止策(サロン・宿泊施設)の策定と徹底
3-b: WEBの整備とSNSでの発信を中心とした偏見の払拭とブランディング
3-c: 視覚障がい者の雇用促進や職域の確立に関するプロモーション

パートナー

【活動受託】独立行政法人国際協力機構(JICA/2020.02~)

【活動連携】シードゥワ障がい者職業訓練センター(スリランカ社会福祉省)、スリランカ盲人協会

【活動助成】大阪コミュニティ財団がっこう基金(2015)、LUSHチャリティバンク(2011)

【指圧指導】笹田三郎、橋本あけみ、吉田朋子【デザイン】谷本天志

プロジェクト成果

2021年プロジェクト計画

1.指圧師養成とトレーニング内容の整備

 5名の生徒に対して、第1期の中級トレーニング(2021年4月~)が開始されましたが、2021年4月から隣国インドの変異株の影響や4月中旬の正月休暇中の人流増加により、急激なコロナ感染再拡大があり、2021年5月~6月にかけては全国で外出禁止令が発令されています。日本人専門家の渡航が難しい中、オンライン会議システムでのリモート指導(※上写真はリモートでの語学研修の様子)も含め、現地のリソースで可能なトレーニングを模索することで、コロナ下での事業継続の知見やノウハウを蓄積し、コロナ収束後に素早く事業目標達成できるように事業を進めています。

2. 指圧サロン『トゥサーレ・トーキングハンズ(Thusare Talking Hands)』の運営

コロナ感染再拡大を受け、縮小営業を余儀なくされていますが、指圧師の安全を確保しつつ、人流の回復後に向けた改善を行っています。WEB(http://thusare.info)についても日本側のデザインチームがサポートを行っており、今後もトゥサーレのプロモーション、SNSを活用した視覚障がい者への偏見や職域の確立に関する情報等についても両国の関係者で連携して進めていく予定です。

2020年プロジェクト成果

 1.指圧師養成とトレーニング内容の整備

 2020年2月より、JICA草の根協力事業(あんまマッサージ指圧訓練コースの設立・運営による視覚障害者の雇用促進事業)が正式にスタートしました。当事業の開始に伴い、指圧トレーニング内容の整理を行いました。まず、トレーニングを3段階のレベル(初級、中級、指導者)に分けた上で、「①知識(基礎医学、英語)」、「②指圧実技」、「③態度・学ぶ姿勢」の大項目内に詳細な評価項目を設定しました。またスケジュールについても、半期ごとに修了テストを行った上で、資格(あくまでも民間資格で、国家資格は今後の活動課題となります)を授与する制度としました。

グレード
初級トレーニング(ジュニアセラピスト):基礎的な体の部位と構造の理解、英語基礎コミュニケーション、学ぶ際の心構え
中級トレーニング(シニアセラピスト):基礎的な疾患・原因理解、クライアントとの英語での最低限の意思伝達、指圧師としての心構え
指導者トレーニング(トレイナー):基礎的な疾患・原因理解と施術の提案、的確なコミュニケーション、レクチャー方法、指導者としての心構え

 2020年3月には、日本人専門家2名(笹田氏、橋本氏)が渡航し、2週間の集中トレーニングを行いましたが、その後のコロナウイルス感染拡大に伴い、スリランカでも外出禁止令が発令され、3月末から9月末まで、トレーニングの中断と自宅待機を余儀なくされました。その後事態の推移を見守りながら、2020年10月1日に日本からのリモート指導を組み入れた「語学講義」と「実技指導」を再開しました。訓練中の指圧師・生徒は、事業開始時は9名でしたが、トゥサーレの営業が大幅に縮小したことに加え、コロナ感染を懸念する生徒もおり、参加生徒は5名となりました。そのような中で、5名とも2021年2月下旬に実施された初級Tの修了テストに合格し、中級トレーニングに進むことになりました。

2. 指圧サロン『トゥサーレ・トーキングハンズ(Thusare Talking Hands)』の運営

 コロンボ市内のショッピングモール「Crescat Boulevard」に新店舗を開店をしましたが、コロナウイルス感染拡大の影響により、2020年3月下旬よりスリランカ全土でロックダウンが発令され、その後も感染の一進一退が続く中、人の流れや経済活動が停滞し、当活動にとっても非常に厳しい状況が続きました。まずは、感染対策を進めつつ、規模を縮小しながらも営業を継続し、コロナ感染拡大が収束した後のために、訓練の強化やメディア発信などの体制強化に注力することとなりました。
 また、2020年5月末には、かねてから進行性がんで闘病されていた笹田氏がお亡くなりになるという悲報が届きました。

笹田三郎氏の逝去について

 当プロジェクトの指圧技術指導責任者である笹田三郎氏が、2020年5月に進行性がんのため、お亡くなりになりました。2020年3月には、JICA草の根事業の第1回現地指導でスリランカに2週間ほど滞在しました。スリランカ滞在時も、がん転移の痛みをこらえて車いすからの技術指導となりましたが、帰国後、体調が急激に悪化されたとのことです。謹んでご冥福をお祈りいたします。
 2011年より、笹田氏と「開発途上国で一人前の指圧師を養成したい」という共通の思いを実現するために歩みを進めてきました。本当に何もない0からの新規事業で、当初は2名の勤め先の見つからない訓練生がいる状態からのスタートでした。その後、ライフワークとして毎年2回のペースで自費でスリランカに滞在し、笹田氏が勤務先であった国立訓練機関で教えてこられた指圧按摩の知識、そして技術を惜しみなくスリランカの指圧師の卵たちに注いでいただきました(笹田氏自身も視覚障がい者ということで、生徒たちに人体の部位や施術方法を教える際も、まさしく、「トーキングハンズ=手と手を取り合って」教えておられました)。
 技術面の指導みならず、生徒たちの人間的な成長を促し見守るという部分では、思い描いた通りにいかないことも多く、苦労もありました。ようやくThusareの認知度や評価も上がり、指圧師も10名ほど雇用できるようになった矢先、まさにこれからという時のお別れとなりました。
 笹田氏は視覚障がいというハンディキャップがおありでも好奇心を忘れず、颯爽と国際協力のフィールドを渡り歩き、明快な語り口で私たちを導き、励ましてくれました。そのすべてに感謝して、残されたメンバーで事業を継続していきたいと思います。まだ、一人前の指圧師は誕生していませんが、生徒の中で講師になる人材が現れ、いつか自身の生徒に笹田氏の事を語る日が来ることを目指して、私たちは進んでいきたいと思います。

In Memory of Sasada Sensei

2019年プロジェクト成果

1.指圧師養成とトレーニング内容の整備

 笹田氏が中心となり、スリランカに渡航し、2~3週間程度の集中的な訓練期間を設けながら、指圧師たちの技術と知識のさらなる向上を目指しました。知識については、新たに導入された骨格標本を用いて、全身の主要な関節の働きと筋肉運動を中心にレクチャーを進めました。英語でのレクチャーということで、今まで英語を体系的に学んだことのない指圧師/生徒にとっては、簡単なことではありませんが、各自講義をスマートフォンで録音する等して、内容を覚えようと努力している姿が見えました。また、個別の習熟度についても指導者間で共有するようにして、よりきめ細やかなサポートを行えるようにしました。

2. 指圧サロン『トゥサーレ・トーキングハンズ(Thusare Talking Hands)』の運営

引き続き、指圧サロンの営業に加え、オフィスセラピーやグッドマーケットへの出展を行っています。また例年通り、「アーユルヴェーダEXPO」への出展を行い、指圧のデモンストレーションと共に視覚障がい者の職域確立に向けたネットワークづくりも行いました。
 2019年には10名の指圧師/訓練生が在籍していますが、内訳は下記の通りです。

人数10名(男性/うち訓練生2名)
年齢平均29歳(19歳~39歳)
視覚障害を負った年代幼少期/2名 10代/5名 20代/3名
平均収入およそRs34,000(指圧師/月)+サービス料
家族うち既婚者3名

 また12月には、各指圧師の家族を指圧サロンに招待して「ファミリー交流イベント」を実施しました。実際に指圧師として働いている姿を見てもらうことで、指圧師たちのモチベーション向上と送り出したご家族の不安解消(マッサージと聞くとスリランカでは「性産業」というイメージを抱く人がまだ大多数)も目的としてあります。家族と離れながらも毎月仕送りをし、家計を支えている指圧師も多く、家族から感謝されているシーンもありました。私たちにもうれしい瞬間です。

 また日本事務所では、2014年より北海道教育大学函館校(グローバル人材論)で講師を担当いますが、スリランカ視覚障がい者に関する課題分析や事業立案のグループワークショップを30名ほどの学生に対して毎年実施しています。開発教育としての面白さに加え、実務的な視点から、フィールドでの実践や試行錯誤をダイナミックに追体験できるような仕掛けも考え、年々内容も改善しています。学生さんからのフィードバックも毎年好評で、うれしい限りです。

2018年プロジェクト成果

1.指圧師養成とトレーニング内容の整備

 引き続き、笹田氏が中心となり、定期的にスリランカに渡航し、指圧技術のトレーニングを行いました。生徒の数も増加し、指圧技術の定着は進んでいますが、接客時のふるまい(プロ意識の不足)や集団生活での課題が多く、指圧師たちの精神的な成長についても留意する必要性を感じています。また、技術習得については、障がいの多様性、言語(英語力の不足)の課題があり、教材の充実化も含め、より効率的なレクチャーの方法も模索していく予定です。

2. 指圧サロン『トゥサーレ・トーキングハンズ(Thusare Talking Hands)』の運営

 トゥサーレの営業開始から5年を超え、視覚障がい者が指圧師として働けるという認知は、政府機関や視障者団体には浸透してきました。顧客数も増え、指圧サロンの運営についてもマネージメント体制(業務管理マネージャー、プロモーションマネージャーの2名体制)を整え、労働環境の向上、雇用キャパシティ拡大に向けた調整を開始しています。

3. 海外での指圧師養成に関する知見の共有

 国際リハビリテーション研究会第1回学術大会で、笹田氏が自身のマレーシア、インド、スリランカでの指圧技術指導体験の考察とトゥサーレでの取り組みについて発表を行いました(資料作成は日本事務所の伊藤が担当しました)。

【PDF発表資料】
視覚障害者への職業自立支援
ソーシャルファームとして取り組む実践報告

【PDF発表資料】
10年間、国際協力支援活動の総括
障害当事者派遣としての挑戦的経験

2017年までのプロジェクト成果

1.指圧サロン『トゥサーレ・トーキングハンズ(Thusare Talking Hands)』の設立

 社会福祉省所管の国立障がい者職業訓練校(シードゥワ職業訓練校/SVTC)では、2009年より講師1名の下、視覚障がい者を対象とした「マッサージ師養成コース(9か月間研修コース)」を始めましたが、2010年の時点で4名の視覚障がい者がコースを修了したものの、就職受け入れ先が全く見つからない状況でした。これらの課題について、政府機関や専門家、当事者団体からの相談を受け、検討を重ねた結果、雇用の場の整備が必要という結論に至りました。そこで当会が中心となり、「視覚障がい者が指圧師として働く場」としてスリランカ初の指圧マッサージサロンをコロンボ市の中心部に開設しました。
 2011年以降、海外での指圧技術指導経験が豊富な笹田氏が年2回ほど現地滞在し、2名の研修生に対しマンツーマンで技術指導を行い、当初はフットマッサージのみの提供内容から徐々にマッサージ技術を習得し、簡易的な全身マッサージも行うことができるようになりました。顧客は、海外観光客、日本人滞在者、現地富裕層の顧客が中心で、マッサージへの評価も徐々に高まっています。
 また、視覚障がい者の雇用促進、指圧師の職域の確立も解決すべき社会的課題と捉え、通常の指圧サロンでの営業に加え、青空市場(グッドマーケット)でのプロモーションマッサージ、エクスポへの出展、大手企業への出張セラピー(オフィスセラピー)、メディアとの連携等も積極的に行い、より多くの人々に当活動を認知してもらえるように活動を展開しました。また、日本からもデザイン専門家が加わり、わかりやすい活動紹介のメディア製作やブランド構築を通して、障がい者雇用や指圧へのイメージや理解が高まるような取り組みも並行して進めています。

2010年視覚障害者職業訓練校の関係者から、訓練内容の改善、修了生の就職について相談を受ける
2011年笹田氏がスリランカでの技術指導開始 (以降年2回ペースで)、CEPAとの共同調査、LUSHチャリティバンクより活動助成
2012年コロンボ市の中心部で「トゥサーレ・トーキング・ハンズ」を開業し、2名の修了生を訓練生として雇用
2013年トゥサーレ・トーキング・ハンズのブランディング開始
2014年グッドマーケットへの参加開始
2015年オフィスセラピーの開始、大阪コミュニティ財団がっこう基金より活動助成
2016年インド事業の修了生が、講師としてスリランカ駐在開始(~2018年)
2017年指圧師8名+訓練生2名+マネージャー2名体制

2.EXPOへの出展や障がい者グループとの関係構築

 アーユルヴェーダEXPO等に毎年出展し、指圧サロン「トゥサーレ・トーキング・ハンズ」のソーシャルビジネスとして取り組み紹介に加え、視覚障がい者が指圧師の適性がある事、指圧(医療マッサージ)の有用性についても来場者に広報を行いました。当時の社会福祉省大臣が出展ブースを訪問した際は、実際に指圧の施術を受けてもらい、メディア等でも取り上げてもらいました。また、視覚障がい者の団体、視覚障がい者のケアなどを行う機関、政府機関や医者グループとの関係構築も進めました。

3. 視覚障がい者を巡る社会課題を調査(2011年)

 2010年6月よりCEPA(Center for Poverty Analysis:貧困分析センター)と協働で、視覚障害者職業訓練校のマッサージ師養成の取り組みと視覚障がい者がマッサージ師として働く上で起こりうる問題について調査分析し、政策提言を行いました。
 ヒアリング調査などを通じて、視覚障がい者個人がマッサージ技術を体系的な指導によって習得する事に加えて、環境面として、スリランカ社会の中に根強く残る“障がい者”や“マッサージ”への偏見を軽減する事、視覚障がい者がマッサージ師として高い能力がある事を雇用受入先となるホテルやマッサージセンターの関係者に理解してもらう事が、特に重要になってくる点を指摘しました。また、指圧マッサージ師という仕事を新たに作り出すためには、「訓練を通して技術を鍛錬する場所」と「得た技術を関係者に対して紹介する“場所”や“システム”作り」を両輪で進める必要がある点をまとめました。

4. メガネの配布事業(中部州ヌワラエリヤ県)(2010年)

 「適切な検査やケアを受けられないことで、失明など視覚に重大な影響を受けている子どもがいる」。当会が活動を行っている中部州ヌワラエリヤ県の関係者、保健省医官から、何ともショッキングな相談を受けました。ヌワラエリヤ県は、スリランカ国内でも貧困者数が最も多い中部州にあり、山間部というアクセスの悪さと行政の予算不足が主因となり、教育機関での視力検査の実施率は非常に低い地域でした。さらに調べてみると、適正な処置があれば視覚障害者とならずに済んだ人の割合が88%もあったこともわかり、早期の視力検査と適正な処置が、生徒の健全な成長、貧困の防止に非常に重要である事が明らかになりました。政府からは、「子どもの視覚問題は国家レベルで取り組むべき重要な課題である。国家予算の問題上メガネの提供はできないが、必要な技術的・医学的支援を行うので、是非ともヌワラエリヤ県への支援を行って欲しい」との強い要望がありました。
 一方で、ヌワラエリアの生徒数は16万名にも及ぶため、検査を行うマンパワーについて工夫が必要になりました。そこで、ヌワラエリア県の学校532校から1名ずつ学校教員を派遣してもらい、視力検査の道具の提供と検査方法を専門家がレクチャーした上で、各校で視力検査を実施しました。その上で視力の問題を抱えている生徒を医療につなぎ、特に問題が深刻な2000名に医師の診断に基づき適切なメガネを配布するというプロジェクトを保健省と共同で実施できることになりました。
 メガネ提供時には保護者への啓発活動を同時に行います。この啓発活動では、子どもの成長期において視力の問題を放置することによって、失明等の問題が発生し、子どもの将来を奪う危険性を理解してもらい、保護者の意識を高めます。また、本活動でのメガネの提供は、『重篤な子どもへの救急処置的なもの』であり、長期的な観点から、その後の定期的な治療が肝要であるとの説明を行います。配布後は、子どもの目の状況を常に気にしつつ、メガネが視力の矯正の効用をきちんと理解し、長期的なケアを行う体制を整備します。
 メガネの配付後に学校を訪問した際には、子どもたちから感謝の言葉を何度となく聞きました。「視力の回復により黒板の文字が見えるようになった」「友達と走り回ることができるようになった」「頭痛が無くなり学習意欲が湧いた」などの声も寄せられました。また、保健省からも本事業を一つのモデルとして今後ほかの地域でも視力矯正事業を進めて行きたいということで、その協力要請も頂きました。現場レベルで仕事をしている地域保健担当医師からは、「特に僻地においては一人の医師がカバーする地域が広く、かつ他の業務もあるため視力検査はいつも後回しにされていた。今回のトレーニングを通して、学校の先生達が基礎的な視力検査を実施できるようになり、それを保健省へ連絡する体制ができたので、子どもたちの視覚問題の早期発見につながる」との感謝の言葉をいただきました。