【報告】在外公館長表彰記念セミナー「障がい者の雇用を創出するソーシャルアントレプレナー」講演内容のご報告

セミナー概要

2026年1月、スリランカでの災害支援や指圧マッサージサロン・ネイルサロン開業による障害者雇用の創出、オーガニック農法の指導とオーガニックショップの経営を通じた農家と消費者の健康維持促進など、長年に渡ってスリランカ社会に貢献されていることからNPO法人アプカス代表の石川直人氏が在外公館長表彰を受賞されました。

https://www.lk.emb-japan.go.jp/itpr_en/11_000001_00281.html

本セミナーでは、石川氏ご自身の歩みやこれまでの取り組み、そして昨年に開業された聴覚障がい・発達障がいをもつスタッフを雇用したネイルサロン「Thusare Lights Up」 の現状と今後についてお話しいただきます。

◆セミナー内容

 1. 石川氏によるトーク(約30分)
  ・これまでの活動と歩み
  ・スリランカにおける障がい者を取り巻く社会課題
  ・ネイルサロン「Thusare Lights Up」の立ち上げと現在の状況
 2. 質疑応答(約30分)

◆石川直人氏プロフィール
2002年JICA青年海外協力隊としてスリランカに赴任。
2004年スリランカのスマトラ沖津波被災地で支援活動を開始。
2007年スリランカ中部州地滑り被災者支援のためNPO法人アプカスを設立
2011年東日本大震災被災地支援
2012年視覚障がい者を雇用する指圧マッサージサロン「Thusare Talking Hands」開業
2015年有機農産物ブランド「Kenko 1st Organic」開始
2025年聴覚障がい者・発達障がい者を雇用するネイルサロン「Thusare Lights Up」開業
2026年在外公館長表彰を受賞

◆参加費:無料 (当日参加者約70名)

◆主催:WAOJEコロンボ(スリランカで事業を行う以下の13名で運営している起業家コミュニティー)

発表資料および内容

石川:今日は「スリランカの見えない壁に光を灯す」と題しまして、我々NPO法人アプカスが関わっているソーシャルビジネスの分野について、これまでの歩みをお伝えできればと思います。

今回のイベントのきっかけは「在外公館長表彰」をいただいたことなんですが、実は裏話がありまして……。昨年10月頃、大使館から「今度ご飯行きませんか」という普通のお誘いをいただいたんですね。

石川:軽い感じで伺ったら、食事の途中で「実は報告があります」と。何か悪いことしたかな?とドキドキしていたら、この表彰のお話でした。正直、この賞があることすら知らなかったので、その場で詳しく説明していただきました(笑)

石川:この活動は、北海道にいる事務局長の伊藤俊介とほぼ二人三脚でやってきたものです。彼は日本で書類やデザインなどのバックアップを、私は現場で好き勝手にやる、という役割分担でここまで歩んできました。

石川:「アプカス(APCAS)」というのはアイヌ語で「歩く」という意味です。「共に歩む」をテーマに活動しています。
私たちがなぜ「支援」ではなく「ビジネス」に軸足を置くようになったのか。その原点は、2004年のスマトラ沖地震津波の被災地での出来事にあります。

石川:当時、被災された方に住宅を建設して鍵を渡したんですが、その翌日にあるおじさんが来てこう言ったんです。「実は電球がいくつか切れてるんだけど、替えてくれないか」と。

正直、びっくりしました。「家をもらった翌日に、電球一つ自分で買わずに頼ってくるのか」と。
もちろん悪気はないんでしょうが、「良かれと思った支援が、彼らから自ら解決する力を奪っているのではないか」という強烈な違和感を抱きました。

石川:これが、単なる支援ではなく、ビジネスの力で「生きる基盤」を作り、対等な関係で持続可能な仕組みを作ろうと決めたきっかけです。

石川:皆さん、一度目を閉じてみてください……。その状態で買い物に行けますか?ご飯をうまく食べられますか?

石川:目を開けてください。物理的な「見えない」という暗闇のさらに奥には、もっと大きな暗闇がある。私たちはそう考えています。
それは「社会的障壁」です。教育の欠如、貧困、社会からの排除や差別。

これらは目をつぶって体験してもなかなか感じることができない「本当の闇」として、深く広がっています。

石川:まず教育ですが、障がい児の初等教育不就学率は20.3%にのぼり、多くの子が学ぶ機会を奪われています。その結果、社会経験やスキルがないまま大人になり、働く場が得られないという負の連鎖に陥ります。

石川:生産年齢の障がい者の70.9%が経済的に非活動的、つまり市場から完全に排除されています。特に女性の就労率はわずか15%と極めて低いです。運良く就職できても、6ヶ月以内の離職率が40%を超えており、定着が非常に難しいのが現状です。

石川:加えて、家族が介護のために働けなくなることで家庭全体が貧困に陥るという「負の連鎖」が起きています。本人の医療費などの支出がかさむ一方で、家族が介護のために仕事に行けなくなることもあります。こうして家庭全体が貧困の悪循環に飲み込まれていく……。これが、私たちがビジネスを通じて立ち切りたいと考えている現実です。

石川:この連鎖を断ち切る第1弾として2012年に始めたのが、視覚障がい者のための指圧治療院「トゥサレ・トーキングハンズ」です。現在、14名のメンバーが活躍しています。
設立の際、盲学校の元教員である笹田先生から決定的なアドバイスをいただきました。

スリランカならアーユルヴェーダと思われがちですが、先生は「仕事にするなら差別化しなきゃいかん。日本の『指圧』という高い技術を武器にするべきだ」と仰いました。

石川:指圧サロン「トゥサレ・トーキングハンズ」は、2012年に2名の視覚障がい者のトレーニングから始まりました。笹田先生に手取り足取り教えていただき、4〜5年かけてようやく5〜6名のプロが育ちました。
実は2020年3月に「2号店をオープンしよう!」と意気込んで開店したんですが、そのわずか2週間後にコロナでロックダウンになりまして……。結局閉鎖せざるを得ませんでした。

でも、そこから粘り強く活動を続け、今はコロナ前よりも多い14名のスタッフが活躍しています。2025年末には、念願だった初の「女性指圧師」も誕生しました!

石川:指圧事業が波に乗ってきたので、次に挑戦したのが聴覚障がい・発達障がいのある女性を対象にしたネイルサロンです。

きっかけは、共同運営者の伊藤奈保子さん(元公益財団法人 日本国際協力財団理事)との「私の姪っ子がネイリストだから聞いてみるね」という軽いノリの相談でした(笑)。でもそこから本気で動いて、2024年12月に6名の研修生を迎えてスタートしました。

石川:私自身、ネイルなんて全く未知の世界。「ジェルネイルが……」なんて言われても、最初は全くついていけませんでした。

クラウドファンディングで多くの方に支えていただき、2025年10月にようやくオープンを迎えました。

石川:順風満帆に見えるかもしれませんが、実は裏ではトラブルの連続です。ある日、寮で共同生活をしていたスタッフの一人が急にいなくなりました。ゲートを乗り越えて家出しちゃったんです。

石川:必死で探したら、一人でキャンディ行きのバスに乗っていました。私は「一人でバスに乗れるなんてすごいね!」と感心したんですが、周りからは「管理不足だ」と叱られました(笑)



石川:でも、こうした「困った行動」は、彼女たちが過酷な環境を生き抜くために身につけた「生存戦略(サバイバル術)」なんじゃないかと思うんです。
綺麗な花(技術)を咲かせるには、強い根っこ(生活スキルや対人関係)が必要です。技術だけ教えても、社会の中では長続きしません。

石川:例えば、否定的な言動や攻撃性は、自分の尊厳を守るために戦わざるを得なかった過去の防衛反応かもしれません。無気力なのは、努力を否定され続けた結果の「学習性無力感」かもしれない。これらを単なる性格の問題で片付けず、過去の歴史に根ざした「正常な防衛反応」だと捉え直すことが大切です。

そう考えることで、私たち支援者も「なんでこんなことをするんだ」という怒りや徒労感から解放されます。相手を「点」ではなく「線」で捉え、「ここは安全なんだよ」という安心感の土台を一つずつ上書きしていく。そこから対等な信頼関係が始まります。

石川:私たちは、ネイルの技術を「花(ハードスキル)」、それを支える力を「根っこ」に例えています。どれだけ綺麗な花を咲かせようとしても、土台となる根っこが腐っていたらすぐに枯れてしまいます。

根っこには3つのチカラがあります。職場での対人関係を築く「ソーシャルスキル」、自分の感情をコントロールし、ストレスにしなやかに対応する「セルフマネジメント」、そして生活の基盤となる「ライフスキル」です。スリランカの障がい者の就労定職率が半年以内で60%未満という厳しい現状を見ても、技術だけでは社会の中で長続きしないのは明らかです。今はこの「根っこ」の部分を育てることに、一歩踏み込んで取り組んでいます。

石川:あわせて、単なるマニュアル教育ではなく、一人ひとりの特性を可視化することにも取り組んでいます。

石川:スタッフそれぞれの発達アセスメントを行い、何が得意でどこに壁があるのかをチャートにして把握しようとしています。
言葉で感情を伝えるのが難しい子には、「今日の気分は何点?」と数字で表現してもらうなど、自分を客観的に見る「自己評価能力」を育む工夫も検討中です。お店での接客だけでなく、こうしたライフスキル全般を学べる、一歩踏み込んだ包括的な訓練体制を作っていきたいと考えています。

石川:去年(2025年)の年末、最大の危機が訪れました。スタッフ5名が次々とデング熱で倒れ、1人はICU(集中治療室)に入って意識不明になりました。医師からは「五分五分です」と告げられました。

石川:ちょうど受賞式の1週間前で、正直「受賞を辞退しなきゃいけないか」という考えも頭をよぎりました。でも、ご両親が事務所に泊まり込んで看病し、他のスタッフも全員でお祈りを捧げて……
結果、彼女は奇跡的に回復しました。この経験を通じて、親御さんやスタッフ同士、そして組織全体の絆がぐっと深まったのを強く感じました。

石川:これから先の道のりについてもお話ししますね。まずは半年以内に、なんとかネイルサロンの経営をプラスマイナスゼロ、損益分岐点に乗せたいと思っています。
ただ経営を安定させるだけじゃなくて、技術と給与をセットで上げていくことが何より重要です。指圧サロンのメンバーはすでに、スリランカの一般企業に負けないくらいの給与を手にしています。ネイリストのみんなにも、自分で稼いだお金で好きなことをするっていう「普通の働く喜び」を、一日も早く実感してほしいんです。

石川:中期的には、今年の4月から2期生として聴覚障がいのある2名を新たに迎える予定です。そこで、訓練体制もさらに強化したいと考えています。技術だけ教えるのではなく、ソーシャルスキルやライフスキルもひっくるめた「包括的な職業訓練」を、店舗とは別の落ち着いた環境でじっくり行える仕組みを作っていきたいですね。

石川:もっと先の長期的なビジョンとしては、彼女たちが「国家資格」に挑戦して社会的地位を確立すること、そしてアプカスで修行したスタッフが自分の店を持つ「のれん分け」のような形での独立を支援していきたいと思っています。

最終的に私たちが目指しているのは、障がいがあるなしに関わらず、誰もが社会の中で役割を持って輝ける、そんな世界の実現です。この歩みを、これからも皆さんと共に見守っていけたら嬉しいです。

質疑応答

参加者

スタッフの皆さんは週に何日くらい働いているのですか?また、共同生活での食事はどうされているんでしょうか?

Ishikawa

労働時間はスリランカの法律に則っていて、月にだいたい6日間の休みを設定しています。地方出身者が多いので、休みをまとめて取って帰省するスタッフも多いですね。
食事については、私たちが提供している寮で自分たちで作っています。最初は親御さんも「うちの子は料理なんてできない」と心配していましたが、「いや、やってください」と(笑)。たまに面倒くさがって豆カレーとご飯だけになったりするので、栄養バランスを考えてメニュー表を作ったりと、我々も試行錯誤しているところです。

参加者

ネイルサロンの集客はどうされていますか?どのようなお客さんが来られているのでしょうか?

Ishikawa

まだオープンしたてということもあり、正直お越しいただけるのは1日に1〜2人程度です。今は知人が中心ですが、たまにGoogleマップを見て予約をくれる「全く知らない方」も増え始めました。

本当は1月から広告を出す予定でしたが、主要メンバーがデング熱で倒れるという緊急事態があったので(笑)、全員が回復した段階でGoogle広告などを本格的に活用していこうと考えています。

参加者

スタッフが病気になった時、全員でお祈りをしたという話がありましたが、宗教の違いなどはどう乗り越えているのですか?

Ishikawa

スリランカは仏教、ヒンドゥー教、キリスト教など多様です。今のメンバーにもそれぞれの信仰がありますが、仲間の危機を前にして、自然と「みんなで祈ろう」となりました。それぞれの宗教のやり方で、でも同じ一人の仲間のために祈る。こうした経験が組織の絆を強くしています。

参加者

スリランカでは「指圧」というのは珍しいものなのでしょうか?

Ishikawa

おそらく私たちがスリランカで初めての指圧治療院だと思います。「指圧」という名前を掲げているところは他にありますが、日本のプロから技術を学んで正しく提供しているという点では、非常に珍しい存在だと言えます。

参加者

障害に加えてLGBTQなど、複数のマイノリティ条件が重なる方への対応はどうされていますか?

Ishikawa

非常に重要な視点ですね。私たちのスタッフにも、聴覚障害に加えて発達障害があったり、過去の心の傷(トラウマ)が影響していたりと、重複した困難を抱える子がいます。
診断名はついていなくても、個々の背景にある教育の欠如や貧困も含めた「プロファイル」を深く理解し、寄り添うことが不可欠だと、今回のネイル事業で強く感じています。

参加者

石川さんの大らかなお人柄が素晴らしいですが、コロナや経営危機を乗り越える力はどこから来ているのですか?

Ishikawa

多くの方にクラウドファンディング等で応援いただいていることが、何よりの支えです。経営面では、事業の多角化が助けになりました。コロナでサロンが閉鎖した時も、「Kenko 1st Organic(農業事業)」が収益を出していたので、相互にカバーすることができたんです。

参加者

お客様はどこの国の方が多いですか?また、ネイルサロンは男性も利用できますか?

Ishikawa

ネイルは現状、日本人が圧倒的に多いですね。一方で指圧の方は7割が外国人観光客で、インド、ロシア、中国、そしてエミレーツやキャセイの客室乗務員(クルー)の方が口コミで来てくださっています。
ネイルサロンの男性利用ももちろん大歓迎ですよ!ぜひご紹介ください。

参加者

メンタルスキルやソーシャルスキルの向上には、具体的にどう取り組まれる予定ですか?

Ishikawa

まさに今、日本の事例を勉強しながら「スリランカ版」を組み立てている最中です。例えば、感情を言葉にするのが難しい子には「今日の気分は何点?」と数字で表現してもらうなど、自分の状態を客観的に把握する仕組みを導入したいと考えています。もし専門家の方がいれば、ぜひお知恵を拝借したいです。

関連サイト

■ 聴覚障がい・発達障がいがある女子が活躍するネイルサロンの運営(障がい者分野)

■ 視覚障がい者の指圧師養成と指圧サロンの運営(障がい者分野)事業紹介ページ

■ Thusare Talking Hands Official SIte

■ 視覚障がい者の指圧師養成と指圧サロンの運営(障がい者分野)事業紹介ページ

NHKWorld「FRONTRUNNERS」で、アプカス石川の密着ドキュメンタリー(英語版)が2025年11月に放映されました。視覚障がい者野指圧サロン事業を中心に、石川や指圧師たちのこれまでと今を軸に、アプカスの国際協力事業やソーシャルビジネスを紹介いただきました。放送番組は、下記のページからご覧になれます。

https://www3.nhk.or.jp/nhkworld/en/shows/2103042
https://www.youtube.com/watch?v=FYQiV2ZU0zQ
“FRONTRUNNERS” Social Entrepreneur – Ishikawa Naohito @NHKWorld