【報告】2020年プロジェクト報告(障がい者分野)

2020年プロジェクト成果

 1.指圧師養成とトレーニング内容の整備

 2020年2月より、JICA草の根協力事業(あんまマッサージ指圧訓練コースの設立・運営による視覚障害者の雇用促進事業)が正式にスタートしました。当事業の開始に伴い、指圧トレーニング内容の整理を行いました。まず、トレーニングを3段階のレベル(初級、中級、指導者)に分けた上で、「①知識(基礎医学、英語)」、「②指圧実技」、「③態度・学ぶ姿勢」の大項目内に詳細な評価項目を設定しました。またスケジュールについても、半期ごとに修了テストを行った上で、資格(あくまでも民間資格で、国家資格は今後の活動課題となります)を授与する制度としました。

グレード
初級トレーニング(ジュニアセラピスト):基礎的な体の部位と構造の理解、英語基礎コミュニケーション、学ぶ際の心構え
中級トレーニング(シニアセラピスト):基礎的な疾患・原因理解、クライアントとの英語での最低限の意思伝達、指圧師としての心構え
指導者トレーニング(トレイナー):基礎的な疾患・原因理解と施術の提案、的確なコミュニケーション、レクチャー方法、指導者としての心構え

 2020年3月には、日本人専門家2名(笹田氏、橋本氏)が渡航し、2週間の集中トレーニングを行いましたが、その後のコロナウイルス感染拡大に伴い、スリランカでも外出禁止令が発令され、3月末から9月末まで、トレーニングの中断と自宅待機を余儀なくされました。その後事態の推移を見守りながら、2020年10月1日に日本からのリモート指導を組み入れた「語学講義」と「実技指導」を再開しました。訓練中の指圧師・生徒は、事業開始時は9名でしたが、トゥサーレの営業が大幅に縮小したことに加え、コロナ感染を懸念する生徒もおり、参加生徒は5名となりました。そのような中で、5名とも2021年2月下旬に実施された初級Tの修了テストに合格し、中級トレーニングに進むことになりました。

2. 指圧サロン『トゥサーレ・トーキングハンズ(Thusare Talking Hands)』の運営

 コロンボ市内のショッピングモール「Crescat Boulevard」に新店舗を開店をしましたが、コロナウイルス感染拡大の影響により、2020年3月下旬よりスリランカ全土でロックダウンが発令され、その後も感染の一進一退が続く中、人の流れや経済活動が停滞し、当活動にとっても非常に厳しい状況が続きました。まずは、感染対策を進めつつ、規模を縮小しながらも営業を継続し、コロナ感染拡大が収束した後のために、訓練の強化やメディア発信などの体制強化に注力することとなりました。
 また、2020年5月末には、かねてから進行性がんで闘病されていた笹田氏がお亡くなりになるという悲報が届きました。

笹田三郎氏の逝去について

 当プロジェクトの指圧技術指導責任者である笹田三郎氏が、2020年5月に進行性がんのため、お亡くなりになりました。2020年3月には、JICA草の根事業の第1回現地指導でスリランカに2週間ほど滞在しました。スリランカ滞在時も、がん転移の痛みをこらえて車いすからの技術指導となりましたが、帰国後、体調が急激に悪化されたとのことです。謹んでご冥福をお祈りいたします。
 2011年より、笹田氏と「開発途上国で一人前の指圧師を養成したい」という共通の思いを実現するために歩みを進めてきました。本当に何もない0からの新規事業で、当初は2名の勤め先の見つからない訓練生がいる状態からのスタートでした。その後、ライフワークとして毎年2回のペースで自費でスリランカに滞在し、笹田氏が勤務先であった国立訓練機関で教えてこられた指圧按摩の知識、そして技術を惜しみなくスリランカの指圧師の卵たちに注いでいただきました(笹田氏自身も視覚障がい者ということで、生徒たちに人体の部位や施術方法を教える際も、まさしく、「トーキングハンズ=手と手を取り合って」教えておられました)。
 技術面の指導みならず、生徒たちの人間的な成長を促し見守るという部分では、思い描いた通りにいかないことも多く、苦労もありました。ようやくThusareの認知度や評価も上がり、指圧師も10名ほど雇用できるようになった矢先、まさにこれからという時のお別れとなりました。
 笹田氏は視覚障がいというハンディキャップがおありでも好奇心を忘れず、颯爽と国際協力のフィールドを渡り歩き、明快な語り口で私たちを導き、励ましてくれました。そのすべてに感謝して、残されたメンバーで事業を継続していきたいと思います。まだ、一人前の指圧師は誕生していませんが、生徒の中で講師になる人材が現れ、いつか自身の生徒に笹田氏の事を語る日が来ることを目指して、私たちは進んでいきたいと思います。