【記事】耕畜連携で“循環型農業”に転換へ 山梨県北杜市の挑戦/NHK

2022.11.28

https://www3.nhk.or.jp/news/html/20221129/k10013906681000.html

農業や畜産業に欠かせない肥料や飼料。

食の基盤ともいえるこうした資材の価格高騰が続き、農家は悲鳴をあげています。

危機的な状況を打開しようと山梨県最大の米どころ、北杜市では、農業資材の輸入依存を見直し、持続的な“循環型農業”への転換を進めています。

地元の農業を守るという目的を共有し、新たな道に挑戦する人々を取材しました。

(甲府放送局記者 飯田章彦)

高騰続く肥料・飼料価格

八ヶ岳南麓に位置する北杜市。

豊かな水源と標高差を生かした米作りが盛んな地域で県内の米の4割が生産されています。

また市内の清里高原や小淵沢には多くの牧場があり、山梨を代表する畜産地域となっています。

取材を始めたことし7月、北杜市で米や野菜などを生産する農業法人を訪ねました。

ロシアのウクライナへの侵攻をきっかけにロシア産などの原料を使っている化学肥料が品薄となり、価格が急上昇しているといいます。

実際どのくらい上がっているのか。

長坂ファーム組合 堤教文 総務部長
「私どもが使っている肥料はウクライナの前の3割近く値上がりしている。もっと心配なのが、ものが入ってこないんじゃないかということです」

価格高騰の波は家畜の餌にも押し寄せています。

地元で和牛を育てている畜産農家の山田修司さん。

餌として北米産の牧草を与えていますが、価格の上昇に歯止めがかかりません。

生産コストの急増が経営を直撃しています。

山田畜産 山田修司社長
「私たち畜産農家に牧草は欠かせないものです。当初コロナ禍で価格は1割ほど上昇しましたが、ロシアによるウクライナへの侵攻で、さらに1割、2割と値上がりしています。何か策を打たなければならない」

新たな道への挑戦

この深刻な状況を打開しようと立ち上がったのが北杜市農業振興課の副主幹、浅川裕介さん。

地元の農業界が総力をあげて解決策を探らねばならないと考え、7月下旬、地元の米農家や畜産農家を一堂に集め、対策を検討しました。

1時間半にわたる会議の結果、新たな道に挑戦することが決まりました。

新たな道、それは農業と畜産業のいわゆる“耕畜連携”で循環型農業を実現すること。

戦前には、ごく当たり前に行われていた地域資源を生かす取り組みです。

その仕組みです。

米農家が刈り取った稲わらを地域の農協が窓口となって買い取り、畜産農家に牛のえさとして販売します。

一方、畜産農家は、牛のふんや尿で作った堆肥を米農家に販売します。

米農家にとっては使い道がなかった稲わらが新たな収益源となります。

堆肥の購入代を差し引いても、10アールあたり、1万円ほど収入が得られるということです。

また畜産農家は、稲わらの活用と堆肥の販売でえさ代のコストを半分ほどに減らせるといいます。

北杜市農業振興課副主幹 浅川裕介さん

「地域に資源としてあるのに、手間がかかる、大変だからということで利用されてこなかった堆肥、そういったものに再注目することで循環型農業を目指し、みんなでこの危機を乗り越えていきたい」

北杜市では、刈り取った稲わらを円筒状に梱包する機械を導入する農家に補助金を出して耕畜連携の取り組みを後押ししています。

また農家が機械の操作法を学ぶ講習会も開きました。

今後は米を乳酸発酵させた飼料作りを推進したり、独自の認証制度を作って耕畜連携で生まれた農産物をブランド化したりするなど新たな取り組みに挑戦したいとしています。

浅川さん
「かつてない値上げやそもそも資源が入ってくるのかがわからない状況など、これまで経験したことがないようなことが今、農業界で起きています。農家が元気よく夢を持って農業に取り組める、そんな環境を市としても作っていきたい」

未来への一歩に

耕畜連携で手がける昔ながらの“循環型農業”。

栄養価の高い海外産の牧草や輸入肥料を使わずに地域の資源だけで農産物の品質を確保できるのかなど課題はありますが、環境に優しくリスクにも強い農法として今、全国各地で同様の取り組みが始まっています。

危機を乗り切るために北杜市が始めた新たな挑戦が地元の農業の未来につながる一歩になってほしいと思います。

APCAS

ウクライナ侵攻に伴う肥料高騰が契機となって、経済的な視点から「循環型農業」への転換が注目されるようになっています。その先に「成熟した消費社会」があることを願っています。