【記事】日本の鉄道中古車両 シエラレオネで活躍へ / NHK道南

2023.10.02

https://www.nhk.or.jp/hokkaido/articles/slug-n606be7aff01e

日本の鉄道中古車両 シエラレオネで活躍へ

JR北海道の特急「オホーツク」や「大雪」、「北斗」などとして道内で活躍し、この春に引退した「キハ183系」。第2の活躍の場が決まり北海道から海をわたる長旅に出ることになりました。行き先はなんと1万3500キロ以上も離れた西アフリカのシエラレオネです。

海をわたる「キハ183系」

9月2日、函館港の港町ふ頭。よく晴れた青空の下で「キハ183系」の車両が次々とクレーンでつり上げられ、シエラレオネから来た大型船に積み込まれていきます。現地で旅客鉄道として活用される予定で、7両が輸出されました。
「キハ183系」は旧国鉄時代に開発されたディーゼル車両で、多くの鉄道ファンから惜しまれながら、ことしの春、引退しました。

そして今、およそ1か月半かけて、西アフリカのシエラレオネに向けて海を渡っています。

シエラレオネとは

日本の約5分の1、北海道の9割近くの面積におよそ850万人が暮らすシエラレオネ。主食はコメで、主な産業は鉄鉱石やダイヤモンド、金やボーキサイトといった鉱業。そのほかにはコメやコーヒー、カカオ、ヤシ油などの農業も盛んです。

ふだんの移動手段は三輪自動車やバイク、乗り合いバスや自動車などです。
実はシエラレオネでは現在、旅客鉄道は運行されていません。その一方で、鉱物などを運ぶ貨物列車が走っています。

現地の関係者などによりますと、線路の幅は日本の在来線と同じ1067ミリ。そのため、既存の線路をそのまま活用して、日本の中古車両を走らせることができるとしています。

また、「キハ183系」が走る今回の計画は、港があるペペルから東にあるマグブラカまでで、いまある道路で計算すると約165キロの距離です。

アフリカでも需要あり

今回、「キハ183系」の中古車両を買い取って輸出を担当しているのは、東京に本社がある貿易商社です。性能がよいとされる日本の鉄道車両ですが中古であれば価格が抑えられます。さらに、シエラレオネの関係者が希望する運行に向けた時期と「キハ183系」の引退のタイミングが重なり、中古車両の在庫があったことも、輸出を後押ししたと言います。

一方、この会社ではこれまでミャンマーをはじめとしたアジアなどに中古車両を輸出してきましたが、アフリカへの輸出は今回が初めてだということです。また、国土交通省などへの取材でも日本からアフリカへの鉄道車両の輸出自体が初めてではないかということです。

この会社では、電化が進んでいないアフリカで燃料を使って走るディーゼル車両の需要があると見込んでいて、今後はアフリカへも販路を広げていきたいとしています。

輸出担当の貿易商社 ソゥ ウィン トン執行役員
「世界中で鉄道インフラにいろいろな国が力を入れています。それぞれの国に見合ったインフラ整備があってそれにあわせて車両の導入も必要になっていく。アフリカ地域でも国の発展やインフラ整備に少しでも貢献できればと思っています。アフリカでも安全で快適、そして鉄道を楽しめるよう提供していきたい」

運行への課題は

5年ほど前から現地在住のJICA=国際協力機構シエラレオネ支所の佐藤仁所長です。旅客鉄道の話を聞いたときは驚いたそうです。

JICAシエラレオネ支所 佐藤仁 所長
「昔は首都のフリータウンでも狭い幅の鉄道が走っていたようなんですけれど、今はありません。普通の国民にとって旅客鉄道ってピンとこないと思います。ごく一部のお年寄りだけがそういえば走っていたかな、みたいな感じですね」

シエラレオネでの運行については、安定的で安全な運行が継続できるかなどが課題です。さらに乾期と雨期があるシエラレオネでは、年間3000ミリを超える雨が降ることもあり大きな川も多いことから、豪雨への対策も必要だと指摘しています。

JICAシエラレオネ支所 佐藤仁 所長
「点検やメンテナンス、人材の訓練や教育が続いていかないといけない。ここでは、ある日壊れちゃって動きません、直す人もいません、そのままです、というのがいっぱいあるんです。そこが心配です」

こうした中、現地で技術指導を担当するのは、ミャンマーの人たち。日本の鉄道中古車両を長年運行してきた実績があります。現地に赴くのは運転士や整備の技術者など4人。シエラレオネの場所さえ知らなかった彼らにとって「大きな挑戦になる」と意気込んでいます。

技術指導チームのリーダー アウン ウィンさん
「ミャンマーで20年間にわたってキハを運行してきた私たちの経験を現地で共有できればと思っています。キハ183系は日本ですばらしいサービスを提供してきた車両です。だからこそシエラレオネでも同じように公共交通機関として活躍できるようにしたい。
私たちの指導が終わったあとも、シエラレオネで長く運行できるよう現地で一緒に取り組んでいきます」

日本とシエラレオネ

シエラレオネは内戦のあと、エボラ出血熱の流行を経験。GNI=国民総所得は1人あたり年間510ドルほどと、アフリカの中でも貧しい国とされています。現地では一次産品が中心で、とれた資源に付加価値をつけようとしても国内で製品化する技術や施設、人材は整っていません。また鉱物の採掘を進めている企業のほとんどが外国の企業だと言います。
さらに、ロシアのウクライナ侵攻の影響で燃料や食料品などの価格が上がっていますが、給料はほとんど上がっていないため、暮らしぶりに大きな影響を与えています。

こうした中、日本も支援を続けています。JICAシエラレオネ支所によりますと、子ども病院の建設や稲作といった農業、それに配電網の整備といった電力インフラなどの分野に力を入れています。一方、交通インフラの分野では、道路や橋、空港の整備で中国やトルコの民間企業などが積極的に進出しているといいます。

JICAシエラレオネ支所 佐藤仁 所長
「今のシエラレオネは非常に平和的で落ち着いていて人も優しいです。在留邦人は30人ほどと決して多くはないですが、とても日本人に対して好意的です。日本に行ったことがある人は多くないですが、ここで走っている車の9割ほどは日本車なんです。
確かに中国はもっと日本より身近だと思いますが、少なくとも日本は悪いイメージやネガティブな印象を持たれていません」

佐藤所長は、今回の鉄道の中古車両の輸出について、線路の幅が同じであればシエラレオネはじめアフリカでの中古車両の受け入れの可能性は大いにあると考えています。
また、今回の車両輸出をきっかけに日本とシエラレオネがもっと身近になればいいと話していました。

JICAシエラレオネ支所 佐藤仁 所長
「ビジネスの種を植えにシエラレオネに来る人たちがどれだけいるかというと残念ながら今はほとんどいないわけです。でも逆に言えば、上手に入ってくる事によって大きなシェアを取れるかもしれない。日本の企業や人が入ってくることは非常に歓迎です。ポテンシャルはあると思います」

関係者によりますと、「キハ183系」がシエラレオネに到着するのは早くて10月下旬の予定で、到着後は車両の点検や塗装、運転士の養成などに1~2か月はかかるとのことです。

アフリカで活躍する姿が見られる日も、そう遠くないかもしれません。

記事/NHK函館局記者 毛利春香氏


APCAS

この汽車のカラーリングを見ると、札幌から函館に帰省していた学生時代を思い出します。義理の父が、JRでまさしくディーゼル機関車の運転手(新幹線の開業に合わせて67歳で退職)だったということもあり、車両が新たな地で第2の人生を送ってると想像するとなんか歴史が引き継がれたような気持になり、うれしくなります。