
- 1. プロジェクト背景(酪農分野)
- 1.1. 旧紅茶生産地における課題(中部州キャンディ県)
- 1.2. スリランカの紅茶産業
- 1.2.1. スリランカ中部州の紅茶生産
- 1.2.2. スリランカの紅茶産業の構造と課題
- 1.2.3. 中部州の紅茶小規模生産者の現状
- 1.3. スリランカの酪農業
- 1.3.1. スリランカの酪農の現状
- 1.4. 活動のキーワード
- 2. プロジェクト目標と活動概要(牛銀行方式とは?)
- 3. アクション
- 4. パートナー
- 5. プロジェクト成果
- 5.1. 『2ndフェーズ』(ソーシャルビジネス化と自立発展期/2017年以降)
- 5.1.1. 小規模酪農開始後、認められた効果
- 5.1.2. 今後、小規模酪農を継続する上での課題
- 5.1.3. スリランカ農村で小規模酪農は成立するか?
- 5.1.4. 小規模酪農と他のプロジェクトとの連携
- 5.1.4.1. 自社オーガニック農業ブランド「Kenko1st Organic」との連携
- 5.1.4.2. 長屋再生プロジェクトとの連携
- 5.2. 『1stフェーズ』(乳牛配布とインフラ支援期/2013年~17年)
- 5.2.1. 小規模酪農普及プロジェクトに関わる住民の声【フィールドノート】
プロジェクト背景(酪農分野)
旧紅茶生産地における課題(中部州キャンディ県)



スリランカの中央の山間丘陵地帯は、一面に広がる紅茶畑や有名なプランテーションがあり、「ヌワラエリヤ(Nuwara-Eliya)」「キャンディ(Kandy)」等、紅茶の主要生産地の一つです。私たちは2010年に行政関係者の紹介で、標高約1000メートルに位置する中部州バウラーナ村を訪れました。
バウラーナ村は、19世紀にスリランカに紅茶栽培が初めて導入された地域に隣接し、かつては紅茶栽培の盛んな地域でした。しかし、1980年代に、国営企業のマネージメント不足、茶樹の老朽化などの影響により、同地域の紅茶産業は衰退。基幹産業の衰退に伴い、人口も流出し、現在は約800名ほどが暮らしています。村内は道路が整備されていない地区も多く、外部の人が訪れない陸の孤島となっているため、村人の中には初めて見る外国人が、私たちの日本人スタッフだったという人もいたほどでした。
この地域は、イギリス領時代に南インドからスリランカに来たタミル人の子孫が、当時と変わらない手摘みによる葉の収穫(ティー・ピッキング)を行い、細々と紅茶の栽培を行っている状況です。しかし、生活は厳しく、資金不足のため、「紅茶の植え替え(改植)」が進まない問題(紅茶を植え替えてか3年程度収穫ができないため、一時的な収入の低下で躊躇する状況)があり、政府機関も改植を進めようと取り組み(土壌整備、改植、メンテナンスに助成金を出す政策等)を進めるものの、紅茶の改植が進まず、茶の老木が増えることで、「樹勢が低下し病気になりやすくなるため、収穫量低下」⇒「紅茶からの収入低下」⇒「小規模農民の離農」という悪循環が続いています。
住民に聞いてみると、農業(紅茶栽培を含む小規模な畑作)はあくまでの自給用で、不安定ながらも町に日雇い仕事に行ったり、海外への出稼ぎしている家族からの仕送りで、どうにか暮らしているという方も多くいます。収入は平均月1万円程度の人も多く、スリランカの平均よりも大幅に下回っている数字でした。
スリランカの紅茶産業



スリランカ中部州の紅茶生産
紅茶は、スリランカの主要輸出産品であり、スリランカの輸出額の10%~15%を紅茶が占めています(2022年は約10%)。日常的に砂糖のたっぷり入った紅茶が多くの家庭で飲まれています。世界的に見ても、2020年で、茶の生産量は世界第5位(278千tで世界の全生産量の4%)、輸出量では世界第3位の茶の一大生産国です。
スリランカの茶の生産地は、栽培される「高度」で分けられ、ハイ・グロウン(Highgrown/標高1200~2000mの高地で生産されたお茶。Kandyだけは、Medium-grownに含まれる高度でも栽培されている)の代表的産地であるスリランカ中部州は、「ヌワラエリヤ(Nuwara-Eliya)」「キャンディ(Kandy)」「ディンブラ(Dimbula)」「ウダプセラワ(Uda Pussellawa)」の主要生産地があり、セイロンティとして、日本にも多くの愛飲家がいらっしゃいます。日本に輸入される紅茶の内、約40%がスリランカ産紅茶、セイロンティーとなります。スリランカと日本の関わりを語る上では、もっとも身近なスリランカ産プロダクトが紅茶なのかもしれません。


1. ヌワラエリヤ(Nuwara Eliya)
ヌワラエリヤは海抜約2000mに位置し、避暑の高級別荘地としても有名です。寒暖の差に恵まれた環境が、世界の紅茶通を満足させるハイグレードの紅茶を育みます。淡いオレンジカラーが特徴で、爽快な渋みとすっきりとした爽快感があり、その優雅でデリケートな色や香り、味を楽しむためにストレートで飲むのがよいとされています。
2. キャンディ(Kandy)
キャンディはスリランカの古都で、日本でいう京都のような存在。街全体が世界遺産です。スリランカ紅茶の始祖、1867年ジェームス・テイラー氏が最初に紅茶園を開いた歴史ある生産地区です。産地海抜700~1400mで、Medium~Highのどちらにも含まれる高度で生産されます。ハイグロウンティーより気候が温暖なため、濃く鮮やかな紅色と芳醇な香りとコク(英語でフルボディと表現されています)がある一方、バランスの良さが特徴。ブレンドティーのベースとしてもよく使われるそうです。
3. ディンブラ(Dimbula)
ディンブラは、こちらも有名産地であるウバ(Uva)と中央山脈を挟んで反対側に位置し、スリランカ随一の聖地スリー・パーダがある地域です。生産地の高度は、1250m~1700mとHigh-Grownカテゴリーの中でも最も標高の低い産地です。年間生産量が多く、年間を通して安定した品質の紅茶が生産されており、高貴な香り(ジャスミンと杉ようなの香り)とまろやかで上品な渋みがあり、明るくオレンジがかった黄金色。ストレートでもミルクティでもおいしく飲める紅茶で、日本人がイメージする紅茶に最も近い味わいと言われているそうです。
4. ウダプセラワ(Uda Pussellawa)
ウダプセラワ山地は、ウバ(Uva)の北側に位置し、標高は1300m〜1600mとヌワラエリヤ同じ程度の高度にも達する山岳地帯。ウバよりも少し落ち着いた香味でありながら、異なる個性があるため希少価値のある産地として取り扱われているそうです。爽やかな渋みとフルーティな強めの香りが楽しめ、やや濃いめの赤褐色の色合いが特徴の紅茶です。

スリランカの紅茶産業の構造と課題
種類 | 面積 | 従事数 | 生産量 | |
RPC(地域プランテーション) | 民間経営の紅茶プランテーション | 70,891ha (約30%) 各農園の規模:200-250ha | 135,000人 | 65t (2021年) |
SOP(国営プランテーション) | 国営の紅茶プランテーション | 9,164ha (約4%) | 11,000人 | 10t(2021年) |
TSH(小規模農家) | 家族経営の小規模農家 | 132,329ha (約62%) | 400,000人(兼業もあるため推定) うち約75%が、3ha以下の超小規模農家 | 224t(2021年) |
スリランカの紅茶(セイロンティ)と聞くと、広大な丘陵地での「プランテーション(大規模農園)での収穫」をイメージされると思いますが、実は「小規模紅茶農家(TSH)」による小自作農地による作付面積が、プランテーションの2倍程度と格段に広く、生産量も多いということはあまり知られていません。言い換えると、セイロンティの生産のすそ野は、多数を占める小規模農家たちが支えてきたことになります。
さらに、小規模農園の中でも、3haの以下に当たる「超小規模紅茶農家(一般的な農業や日雇い仕事などと兼業している人が多い)」が多数存在し、これらのいわば末端の小規模紅茶農家が離農しているというのが、スリランカの紅茶産業の構造的な課題の一つです。

紅茶は、輸出主要産品として、大部分をオークションを通して国際市場で取引されていますが、近年は他の生産国に比べ、輸出額自体は伸びておらず微減傾向です。その原因として、生産から海外への小売りまで「バリューチェーンが長い」「仲介会社が多い」「バルク品での販売が多く、付加価値がついていない」ことが指摘されており、結果として、生産者が適切な収入を得られない根本原因になっています。また、産業全般に、「機械化(茶摘み機、加工機、選別機、包装機)による効率化が必要」、「バルク商品での輸出が多く付加価値をつけられていない」という課題が指摘されています。

これらの課題解決が進まないため、スリランカ全体の紅茶の生産量は年々減少していますが、国際取引価格が上昇傾向にあるため、輸出額自体は、微減となっています。




2023年9月に大手の紅茶メーカーを訪問した所、機械化された紅茶製造ラインに加え、昔ながらの手仕事の製造ラインも稼働していました。「茶葉発酵」のプロセスはいまだに職人芸の世界とのこと。このメーカーは、「レインフォレスト・アライアンス認証」も取得しているとのことで、紅茶への新たな付加価値を模索していました。
中部州の紅茶小規模生産者の現状


私たちの活動地であるバウラーナ村、コルビッサ村もプランテーションが撤退した後に、点在する小規模農家が細々と紅茶栽培を続けているという状況ですが、実際に小規模紅茶農家の声を拾うと、これまでの肥料高騰による暮らし向きの悪さに、2020年からのコロナ自粛や経済危機影響(食料や燃料などの急激なインフレと通貨安)が拍車をかけ、離農して都市部に働きに出たり、海外に出稼ぎに行かざるを得ないと考えている人が多くなりました。
また、2021年に当時の大統領ゴタバヤ・ラジャパクサ氏が、国内の農業すべてを有機農業へ移行させる政策を一方的に推進し、「化学肥料、農薬の使用を禁止する」と発表。その後、紅茶の単位収量が下降しさらに産業全体へ混乱が広がりました。紅茶生産地では、地滑り災害なども発生しやすく、気候変動問題との関連でも対応が急がれています。
【関連記事】「100%有機農業」めざしたスリランカ 農家は苦境に陥った / 朝日新聞 2022年7月31日
https://digital.asahi.com/articles/ASQ7Y6TC1Q7VUHBI03F.html
政府の統計によれば、2021年後半から2022年前半にかけてのシーズンの稲作収量は、全国平均で1ヘクタール(1万平方メートル)あたり約2.8トン。前年比で35%ほど落ち込んだという。また、紅茶については、2022年の生産量(標準品)は21年比で16%減少。需給バランスが崩れた結果、指標価格は過去最高値圏で推移している。
スリランカの酪農業
スリランカの酪農の現状
スリランカでは、乳製品自給率が40%前後と改善はしたものの依然低く、政府としても、この地域の冷涼な気候と斜面を生かして、生乳生産量拡大に力を入れる政策を掲げており、研究機関での牧草の開発、酪農開始のための資金援助、搾乳機導入の補助金制度(海外からは非関税)、牛乳の最低買取価格の設定(2020年は70LKR/ℓ)などで後押ししています。
乳製品の中でも特にニーズがあるのが、ミルクティを入れる際に使う「ミルクパウダー」でしたが、最近では、健康志向や本格志向から、スリランカ国内で本格的なヨーグルトやナチュラルチーズの製造を行う生産者も出てきました。
乳製品に対する需要は継続的に増加する見込みであるものの、「酪農を行うための土地確保の難しさ」、「繁殖技術の低さ」といった国内ファクターに加え、外貨不足による経済危機で、海外からの濃厚飼料や資材の輸入が今後も制限される見込みのため、「資機材の輸入制限」「エサ(特に濃厚飼料)の確保の難しさ」といった課題もあり、国内牛乳生産の増加、および、乳製品輸入量の増加とも達成は困難であると予想されます。そういった意味でも、日本の酪農同様、海外に依存しない生産体制の確立は急務です。

http://www.statistics.gov.lk/Agriculture/StaticalInformation/rub11より作成

現在、バウラーナ村、コルビッサ村では、地域で生産された生乳は、各農家から朝夕それぞれ一次集乳ポイント(各農家が歩いていける範囲にある)に集められ、業者がそれを回収、2次集乳ポイント(近くの街)にて冷蔵貯蔵し、1~2日置きに大手企業の集乳車により工場へと運ばれるシステムとなっています。






【写真上】大規模酪農の普及のために研究機関に設置された牛舎。欧米の最新の搾乳機も導入されていた。与えられている飼料の写真。【写真中右】一方で、小規模酪農農家は家の敷地内に簡易牛舎を設置している。【写真右下】イスラエルの乳加工機材
※生前、酪農事業含め、多くの事業で尽力いただいたRoshan氏にこの場を借りて深く感謝いたします。
スリランカ全体の酪農技術という視点から見ると、生産性の向上のために海外から、適切な飼料の生産、スリランカの風土に合った品種の選定(海外から乳量の多い品種の導入も行ったが、現地適応できず失敗が続いている)、衛生管理技術と機械導入、乳製品加工ラインでの連携が期待されています。
活動のキーワード

- 地域住民に対する継続的な乳牛の配布方法(牛銀行方式)
- 傾斜地におけるたい肥を用いた循環型農業の開始(化学肥料使用料の低減)
- 小規模酪農による生計向上と栄養改善効果
- 農家間ネットワークと牛乳の集荷物流網の整備
- 乳製品の生産とブランド化(バルククーラーの設置、加工グループとの関係構築)





プロジェクト目標と活動概要(牛銀行方式とは?)
バウラーナ村がある中部州の山間地帯は、高度が約1000mあるため、昼は30℃近くになるものの夜間にはかなり涼しくなる気候です。広い土地が限られたスリランカでは、酪農の普及には適した地域です。地域には、すでに数頭の乳牛を敷地内で飼って酪農を行っている住民も数戸ありました。実際に足を運んでみると、エサや水の管理、病気への対応については自己流が多く、乳量があまり多くないという課題がありました。また、地域にバルククーラーなどの集乳施設がないために、仲買業者時への販売価格が安いという現実も見えてきました。「販売にはすぐに繋がらなくても、牛乳の自家消費やたい肥を自家菜園や紅茶畑に活用できるので、酪農をぜひ始めてみたい」と語る住民も数多くいました。
そのような現地のニーズから、新事業として、乳牛の配布を通して小規模酪農を導入することで、「牛乳および乳製品販売による収入増加」、「牛乳の自家消費による栄養改善」を目指します。さらに、「牛糞をたい肥として活用」することで、 「土―草―乳牛の資源循環を生かした酪農(循環型に近い農業)」の定着を図り、斜面の多い旧紅茶生産地で、より持続的な農業のカタチを模索します(なお、牛ふんを活用した有機肥料の利用を推進しますが、当該地域では化学肥料や農薬の安定入手と適性量の使用が難しい環境下である背景があり、農薬や化学肥料の使用を否定するものではありません)。
また、乳牛を選択した理由として、旧プランテーションの歴史があり、ヒンドゥー教徒であるタミル人が多く暮らす地域なので、「牛は神聖な動物」とされ、大切に扱うという文化背景もあることから、酪農に対する受け入れ障壁も低いのではないかという地域事情もあります。
1.牛銀行方式のよる乳牛の配布と小規模酪農普及
バウラーナ村、コルビッサ村で暮らす小規模農家や元紅茶ワーカー等の希望者を対象に、トレーニングを行った上で、種付けを済ませた乳牛を配布し、牛乳の生産を開始してもらいます。販売収入や自家消費用(食費の低減効果)により、全体的な生計の向上を図ります。
乳牛の購入費用は、(活動開始時期の2014年頃)「1頭70,000LKR(=約40,000円~45,000円/住民の1か月の収入の4~5倍)」と高価なため、より多くの住民に持続的に配布し続けるために、「牛銀行方式」での配布を行います。
牛銀行方式では、『乳牛(種付けされた大人の雌牛)の配布を受けた住民の下で新たに産まれた「初めての雌牛」を利子分として私たちに返してもらい、その牛を新たな住民に提供』します。時間はかかりますが、限られた予算の中で、持続的に乳牛という資産を皆で分かち合える方式として、この方式を採用することとしました。
乳牛の配布を受ける住民の選定については、地域住民の声を拾いつつ、行政や獣医とも相談の上、決定します。特に、「今まで牛を飼ったことのない住民」については、すでに牛を飼っている住民から酪農技術の基礎トレーニングを受ける必要があります。トレーナーについては、「すでに牛を飼っている住民」が最も適しているため、技術移転サポートを担ってもらうことを条件に同じく配布対象としました。

2. 酪農を行う住民のネットワーク強化
乳牛飼育に関しては、集乳業者が事実上1社となったことを受け、買い取り価格が不安定になるという事態が生じており、既存の酪農を行っている住民からは、「一社独占の状況が続くと、買取価格が下がる可能性が高い」との懸念の声が聞こえてきます。
そこで、価格決定により強い影響力を持てるように、私たちの事務所の敷地内の建屋に「バルククーラー(牛乳を集めて冷やす機械)」の設置を行い、生産されて牛乳を集める機能、品質の保持期間を強化します。また、干ばつ等の影響で、乳牛のエサに欠かせない「良質な粗飼料(草)」を確保するのが難しいとの声も多く、牧草の安定的確保の方法についても住民間で情報交換やルールづくりが必要になっており、この点のサポートも行います。
アクション
【牛銀行方式による乳牛の配布とインフラ整備】
1.牛銀行方式による乳牛の配布
1-a: 農民の中から受益者を選定する
1-b: 基礎的な酪農技術、たい肥作りトレーニング(3日間)の実施
1-c: トレーニング修了世帯に対して乳牛(ジャージー種)の配布
1-d: 乳牛の飼育と記録付け(必要なフォローアップを行う)
2. 酪農インフラの整備と集乳センターの開設
2-a: 必要な受益者に簡易牛舎の建築資材を提供する
2-b: (水の確保が難しい地域に)水タンクの設置
2-c: 生乳の販売および加工を見据えた集乳センターの設置
2-d: 集乳センター内にバルククーラーを設置する
【住民間のネットワーク強化】
3.家畜発展委員会の組織力強化支援
3-a: 委員会の定期開催
3-b: 先進地域の視察と情報交換
役割 | 担当する仕事・金銭的負担 | |
アプカス | ・牛の配布者の選定 ・病気などの牛への対応サポート ・一部住民への牛舎資材の提供 ・酪農インフラの整備(バルククーラー、水タンク) ・牛乳の販売先、食品加工の導入 ・住民同士のつながる機会の創出 | ・1回目として、乳牛(10世帯分)の購入と提供 ・現場スタッフ雇用(住民のフォローアップ) ・牛舎の建築資材(40,000LKR≒24,000円)の提供 ・酪農インフラの整備(バルククーラー) |
受益住民 (最終的には配布対象を50名程度を目指す) | ・配布された牛の世話(餌やり、衛生管理、搾乳、牧草の刈り取り) ・生まれた子牛の世話(初めての雌牛は4-5か月で新たな住民へ) ・飼育記録 | ・種付け代(1,000LKR/回程度≒600円くらい) ・牛のエサ代(基本は近くに自生している草+ふすまや米ぬかなどの資料を購入 |
獣医・行政 | 【行政】 牛の配布者の選定(公平性の担保) 【獣医】 種付け(人工授精)、牛の登録、病気への対応、酪農技術の助言 | ・技術的なアドバイス ・種付け、病気の牛への対応 ・公共インフラの整備(当該地域では特に水の安定供給) |
※これらの小規模酪農を核として地域開発事業を展開した上で、生産された乳製品の販売、地域でのツーリズムなどを通してソーシャルビジネス化し、より自立性の高い地域開発事業を目指します。
パートナー
【技術助言】松中照夫(土壌学/酪農学園大学名誉教授)、チャリンダ・ベネラーガマ(作物学/ペラデニア大学教授)
【カウンターパート】スリランカ農業省 スリランカプランテーション省 小規模紅茶農家局(Tea Small-holdings Authority)
プロジェクト成果
『2ndフェーズ』(ソーシャルビジネス化と自立発展期/2017年以降)
2013年から乳牛の配布と酪農インフラの整備事業を進め、2017年で完了し、およそ50頭の乳牛を地域に配布できました。今後は、2ndフェーズとして、生産された乳製品の販売、地域ツーリズム事業でソーシャルビジネス化を目指し、中長期でより自立性の高い地域開発事業を目指します。
小規模酪農開始後、認められた効果
①生乳の販売による生計向上効果
飼育技術や頭数によるが、斜面の多い土地やタミル人文化との親和性も高く、既存の仕事に酪農を加えるだけでも、十分な生計向上効果が認められます。一方で、卸販売業者への立場の弱さは依然あるため、生産体制と住民ネットワーク強化が取引価格の安定に欠かせません。
②牛ふんたい肥の利用による土壌の改善効果
地域住民のほぼ全世帯が畑や菜園を持っている。元々の土壌の特性や単一作物の連作で土壌の肥沃度が低いので、施肥の効果や土壌の改善効果は十分見込める。肥料購入費用の低減効果も高い(事業開始時の2013年に、政府は主要な化学肥料である窒素肥料の補助金を33%カット。その後も化学肥料のコストは上昇)。
③牛乳を家庭消費する栄養改善効果
アクセスがよくない地域のため、外部から購入できる食料には限りがあったが、特に栄養分のある牛乳を紅茶や料理に使用することで、栄養改善効果が認められる。
今後、小規模酪農を継続する上での課題
①飼養技術の未熟さ・科学的知識の不足
今まで、「我流」で酪農を行っている住民が大部分で、今回の事業を通して底上げにはなっているものの、飼養技術のバラツキはいまだに大きく、その高低が、牛乳生産量と収入に直結しています。設備面のインプットよりも、牛乳の安定生産に欠かせない「飼養管理」と「衛生管理」への基礎的な理解と徹底が特に重要になっています。また、飼養記録を面倒がって取らない住民も多く、問題が生じた時に原因を究明できないことも多いのが飼養技術の向上の妨げになっています。また、牛の経済的価値、宗教的な位置づけが高く、人目に触れることを避け、放牧を積極的に行わない文化的土壌があり、酪農普及を阻害する要因になりうると考えています。
②大きな支出への対応(運転資金の不足)
牛の病気時の対応、資材の購入などで、まとまった額の資金的な備えが必要ですが、経営基盤がぜい弱なため、これらの経営的なサポート、組合のような互助的なシステム構築も重要になります。
③適切な飼養頭数とエサの入手
現在、粗飼料については、徒歩などで近隣の土地から自生する草を取ってくる住民が多く、頭数が増えてくれば、当然、必要になる草も多くなるため、草の確保により多くの労力をかけないといけなくなります。また、飼養頭数が増えた時の土壌や地下水等への環境負荷についても、未検討の状態です。
スリランカ農村で小規模酪農は成立するか?
一方で、一定の支援は必要になりますが、3年間の事業経験を経て、下記のような家族従事モデルで一定のインフラの整備と初期費用の一部の支援があれば、小規模酪農によって子どもを養育できる程度の生活が十分可能ではないかという結論を得ることができました。スリランカ政府は、事業開始時の2015年に乳製品自給率を当時の17%から50%まで引き上げる目標を掲げており、人工授精などによるサポートを強化する動きもあるため、酪農業全般に対する支援体制も期待できます。

2013年から乳牛の配布と酪農インフラの整備事業を進め、2017年で完了しました。今後は、2ndフェーズとして、生産された乳製品の販売、地域ツーリズム事業でソーシャルビジネス化を目指し、中長期でより自立性の高い地域開発事業を目指します。
小規模酪農と他のプロジェクトとの連携
2017年に約3年間の牛配布のプロジェクトは終了し、約50頭の牛を配布することができ、当該地域では小規模酪農を営む農民が増えました。今後は、循環型農業の普及事業である「Kenko1stプロジェクト」や紅茶労働者向けプランテーション長屋の再生活用事業「The Line House プロジェクト」活動拠点として、当該地域の住民との関係を継続していきます!
自社オーガニック農業ブランド「Kenko1st Organic」との連携
当該地域で生産された牛乳を使って、乳製品の販売を行っています。また、当該地域で生産される「にんじん」などの有機野菜をKenko1st Shopで、長期契約かつ安定価格で仕入れることにより、地域の農民と継続的な関係を築くことができました。
乳製品の種類は、現在、「牛乳」、「ヨーグルト(ギリシャヨーグルト)」、「飲むヨーグルト(加糖、無糖)」を製造し、Kenko1st Shop、コロンボ市内のスーパー、病院の売店等で販売しています(Kenko1stの乳製品については、まだ生産量が安定しないため、他産地の牛乳を使用することもあります)






長屋再生プロジェクトとの連携
バウラーナ村は少数民族であるタミル人が多く暮らす地域。その文化や生活を歴史的な「長屋(The Line House)」に滞在しながら体験できる事業を開始しました。地域住民に大切にされているヒンドゥー寺院に行ったり、紅茶を摘んだり、薪の竈でカレーやミルクティを作ったり、自然豊かな山間地をトレッキングしたりと、ご要望に合わせた特別な時間と体験をご提供いたします。





当会の現地スタッフであるタミル人女性がツアーのアレンジし、長屋の近隣住民がお食事を提供いたします。
『1stフェーズ』(乳牛配布とインフラ支援期/2013年~17年)





1.牛銀行方式のよる乳牛の配布と小規模酪農普及
行政や住民からヒアリングを行い受益者を選定後、配布を受けた住民は、飼育記録(Sustainable Animal Management Programme Book)に記録をつけてもらい、技術的なフォローアップを行いました。また、乳牛の配布に先立って、下記の「基礎的な飼養・衛生管理」、「個体管理」、「繁殖」についてレクチャーを行いました。
1. ジャージー種の特性及び管理方法 | ・乳牛の種類:ジャージー種、フリーシアン種等の特徴について ・乳牛の性質:警戒心、記憶力等 ・乳牛の生産生理:胃の構造、反すう、消化 |
2. 飼養管理 | ・採食量:一日の飼料の量 ・粗飼料の重要性:ルーメン内の発酵を円滑に進める ・各期の飼料給与の要点:分べん期、泌乳期、乾乳期における餌やり・回数等 ・餌に適した草について |
3. 人工授精 | ・人工授精の利点について(優良種、期間管理とは) ・人工授精を行うために必要なサービス(家畜生産衛生局の紹介) ・同地域内における人工授精の現状とサービスへのアクセス方法 |
4. 牛舎管理 | ・ 簡易牛舎の作り方 ・ 牛舎内における牛の管理方法 ・ 糞尿処理について、堆肥の作り方 |
5. 行政のサポートシステム | ・ 関係機関の紹介 |
2013年に、10世帯にトレーニングを行った上で、最初の乳牛を配布し、乳牛飼育を開始しました(最終的には2017年に50頭まで配布する牛が増えました)。また、牛舎建築に必要な資材についてもアプカス側で提供し、建設作業は各住民の負担、近隣住民同士で協力して行ってもらいました。
家畜配付後、1週間ごとにスタッフが巡回し、家畜の生育状況等の確認を行うとともに、特別な問題がある場合には、獣医師と連絡を取り合い、専門的な助言を得られるようにサポートを行いました。また、地域の行政機関(デルトタ郡事務次官、コラビッサ村行政官)とも事業の進捗を共有し、今後の行政との連携体制の強化も行いました。
デルトタ郡事務次官との協議では、村が少しずつ変化していることを次官も見聞きしており、とても期待しているとのことでした。一方で、「発展が進むにつれて利害関係が複雑になり、地域内の人間関係やパワーバランスも変化し、住民同士の軋轢が表面化することがあるかもしれないが、長い目で見ればそれらも避けては通れない局面であろうと考えていて、それらの過程で行政側のサポートが必要であれば言ってほしい」とのことでした。
また、公共的な酪農インフラの整備として、水供給設備(貯水機能としての水タンク)の整備、集乳センターの開設(バルククーラーの設置含む)も行いました。これらの整備の結果として、集乳ネットワークが強化され、販売価格の上昇を確認することができました。
集乳センターを利用する78世帯の内、69世帯は3割以上の収入増加、7世帯は2割増加、2世帯は増加なしという状況となりました。
小規模酪農普及プロジェクトに関わる住民の声【フィールドノート】
また、フィールドワークや住民とコミュニケーションを取る中で、下記のような住民の声を聞く事が出来ました。
Q1. 「初めて牛を飼ってみて、どういった効果がありましたか?」

まだ多くの数の牛を飼えないから、牛乳をたくさん売ることはできないけれど、牛のたい肥を家の周りの畑の有機肥料として簡単に使えるようになって、野菜の育ちがすごくよくなりました。牛を飼う前は肥料を買ってきていたので、そのお金もかからなくなってうれしいです。
あと、この地域はカーストの名残もあり、住民の交流あまりなかったんだけど、牛の飼い方のお悩み事などを話しているうちに、住民同士の交流が自然に増えました。
Q2. 「なぜ、つないで牛を飼う住民が多いのですか?」

放牧の方が、エサをあげるのも手間がかからないけど、土地がせまいから。
あと、牛が誰かに盗まれることもあるので、用心のためもあるよ。
牛は神聖な動物だからね。あまり人には見せたくないというのもあるね。
Q1. 「牛乳を卸している会社に、どんな要望がありますか?」

高く買って欲しいという以外に、どうしても動物相手だから、大きくお金がかかる「牛の病気の治療代」とかを負担してくれる制度があると安心して酪農ができて助かるね。
※スリランカでは、公務員の獣医が牛の治療や種付けを担当。個別に料金を支払う。





【フィールドノート】日本人スタッフの訪問時に、事業地の寺院で住民の皆さんが数日前から準備していた歓迎セレモニーを催してくれました。このようなセレモニーを住民主導で開いたのは初めてとのこと。現地フィールドスタッフも住民の温かなおもてなしに、日々の苦労が報われた瞬間だったのではと思います(2014年2月)