プロジェクト背景(建築分野)

建築分野における課題(旧紅茶農園プランテーション長屋群)

 バウラーナ村は、1867年にスリランカでイギリスによって紅茶栽培が初めて導入されたキャンディ県デルトタ郡に位置し、1970年代までは紅茶産業の盛んな地域でした。その後、国営企業の経営不振、茶樹の老朽化などの影響により、同地域の紅茶産業は生産量が激減し、紅茶生産を生業としてきた住民の貧困化が進んでいます。農民の4割は、現金収入を得るために近隣の街に日雇い仕事を探したり、出稼ぎのために大都市へ出ていく状況が続き、中には村に戻ってこない人も見られます。今後も生活資金、教育資金などの現金収入を得るために地域外へ出ていく人が増え、地域内の人口減少が進む危険性が高いと考えられます。 

地域の基幹産業であった紅茶産業が衰退する中で、歴史的なプランテーション長屋に暮らす

 当該地域は、2012年よりキャンディ事務所を構え、酪農や養鶏を中心とした生計向上支援活動を展開している地域です。2013年に今後の活動計画を模索する中で、地域住民が暮らす住居である「紅茶プランテーション長屋」について話が及びました。「プランテーションの長屋」と聞くと、劣悪な環境下での搾取労働をイメージさせる「負の遺産」のイメージがありますが、住民の実際の暮らしを見ていると、長屋によっては住民によってきれいにメンテナンスされ、中も涼しく、居住性も決して悪いものではありません。
 そこで長屋の地域資源としての可能性を探るために、2014年3月に、建築とコミュニティ分野の専門家である前田(京都大学准教授/建築とコミュニティ開発)、大庭(一級建築士事務所 大庭徹建築計画)が現地滞在し、既存長屋の実測、間取り調査、構造調査、および居住者の生活史や地域の歴史についてのヒアリング調査を実施しました。植民地の労働者長屋というと安価で素材で作られた建物を想像しましたが、調査してみると、建設当時、僻地である山奥まで苦労して運んだと思われるスチールを使用した建築構法など、長屋の建物の建築的・歴史的な魅力や価値は、非常に大きいことが判明しました。  
 一方で、貧困に苦しむ居住者も多く、空き家や未修繕家屋も年々増加し、今後の長屋群の保全や有効利用を考えると、大変厳しい状況にあることもわかってきました。さらに若年世代がよりよい仕事を求め、コミュニティの外に出ていくことで、タミル文化の継承も難しくなっている課題も明らかになりました。

この地域で行われてきた乳牛配布、循環型農業普及の農業系プロジェクトと連携する形で、当プロジェクトを実施し、総合的な地域開発事業として地域の文化に配慮した新たな生業を模索します

活動のキーワード

  • 負の建築遺産でもある「プランテーション長屋」の保全と活用
  • 自然や歴史、文化を体験できる地域ツーリズムの展開
  • 農業系プロジェクトとの連携による相乗効果

プロジェクト目標

【負の建築遺産である紅茶長屋の再生】

 イギリス植民地期に建てられた旧紅茶農園の築100年を越す「労働者長屋(Line House)」を歴史や風土に配慮して日本人専門家、建築学生、地域住民と共に参加型で再建します。長屋での滞在・交流プログラムや調査を通じて、長屋の価値を、建物の価値だけでなくそこで営まれてきた暮らしの価値も含めて多面的に明らかにし、その成果を広く発信・共有していきます。

【地域ツーリズムの事業展開による地域活性化】

 長屋居住者(インディアン・タミル)のアイデンティティと生活の歴史を含めた地域資源を発掘した上で、完成した長屋のゲストハウスを滞在拠点として活用し、当時の紅茶栽培の労働体験やタミル文化や自然体験などができるプログラムを組み合わせた「地域ツーリズム」を展開します。観光を基盤とした現地雇用を生み出し、地域の貧困削減と再活性化に貢献することを目指します。

アクション

 バウラーナ村、コラビッサ村は、中部州キャンディ県デルトタ郡の標高約1,000メートルの丘陵地帯に位置する村で、総面積745haの内、耕作放棄地247ha、山林157ha、住居及び畑276ha、茶畑65haとなっている。同地域には、シンハラ65%、タミル25%、ムスリム(イスラム教徒)10%の3民族1,497名が暮らしています。

【負の建築遺産である紅茶長屋の再生(2013~2016)】

1.プランテーション長屋に関する基礎調査
1-a: 長屋の実測、分布、使用実態に関する調査
1-b: 住民のインタビュー調査
1-c: 長屋の建築的価値の調査

2. 歴史や風土に配慮したリノベーション計画の策定と改修工事
2-a: リノベーション計画作り
2-b: 建築方法やコスト算出
2-c: 建築資金の捻出(一部クラウドファンディングで募集)
2-d: 改修工事
2-e: 内装などの追加工事

【地域ツーリズムの事業展開による地域活性化(2016~現在)】

3. 地域観光資源マップ作りと人材育成
3-a: 地域の観光資源、自然・文化体験候補の調査
3-b: 資源マップ作り

4. ツアーコンシェルジュの選抜と育成
4-a: 地域の若年世代から、ツアー・コンシェルジュを選抜(2~3名程度)
4-b: 接客・語学研修(英語)の開催
4-c: ツアーの予行演習

5. 地域ツーリズムの拠点としての活用開始
5-a: ツアー受け入れ開始
5-b: 旅行ツアーサイトへの登録

パートナー

【活動助成】日本国際協力システムJICS(地域の若者に対する語学研修費用等/2016)

【研究助成】 公益財団法人 LIXIL住生活財団 / 公益財団法人 大林財団 / 公益財団法人 旭硝子財団

【研究調査】前田 昌弘(建築とコミュニティ開発/京都大学准教授)

【建築計画】大庭 徹 (一級建築士事務所 大庭徹建築計画)

コンタクト

 長屋での宿泊、および、体験ツアーの受け入れを行っておりましたが、コロナ感染拡大もあり、現在ご予約を休止しております。地元住民との交流や山間地でのありのままの生活が垣間見れる長屋への滞在、当該地域の体験ツーリズム(キャンディやヌワラエリヤ観光・視察時の一部として利用も可能)にご興味をお持ちの方は、問い合わせページからご連絡ください。

Mano

マノー

コンシェルジュ

プロフィール&メッセージ

長屋の改修時期から、このプロジェクトに関わっています。今まで多くの日本人が訪れてくれ、長屋に滞在しながら、紅茶摘みや食事作りなどを体験してくれました。

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コンシェルジュ

コンシェルジュ

プロフィール&メッセージ

 マノーさんの親戚という間柄から、ツアーのコンシェルジュを始めました。決して便利な場所ではありませんが、みんなで外国のお客様をおもてなしすることが楽しいです。今後はさらに言語や文化のことを勉強して、より深くみなさんにお伝えできるようにできればと思います。

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【専用予約ページ】

滞在やツアーを希望される方は、下記のご予約ページに詳細が記載されておりますので、ご覧ください。

http://apcas.jpn.org/linehouse/booking/

プロジェクト成果

2017年~ 地域ツーリズムの開始

地域観光資源マップ作りと人材育成

 当該地域に滞在したインターン学生が中心となり、現地調査や訪問者からの聞き取りによって、地域ツーリズムのシーズになる地域資源を整理し、マップ化しました。その上で、実際にツアー案内を行う地域住民の若者(コンシェルジュ)がツアーの構成とおもてなしを考えて、模擬練習を重ねました。

① 建築
(長屋建築群、ヒンドゥー教寺院)
・長屋および昔の建物見学
・ヒンドゥー教寺院巡り
・紅茶工場見学
② 食文化
(酪農、新鮮な野菜、タミル家庭料理)
・紅茶づくり(茶摘み、発酵、乾燥)
・酪農体験
・有機野菜や果物の収穫
・タミル料理作り(かまどを使っての料理)
③ 伝統文化
(ボディペイント、手工芸品)
・伝統的なペイント(ヘナ)
・ヒンドゥー教儀式
・伝統衣装(サリー)着付け
・村の歴史を知る
・タミル、シンハラ語教室
④ 自然
(眺望の良さ、松林)
・トレッキング
・星空観察
・松林の散歩
・川での水浴び
学生インターンと地元住民で整理した地域資源リスト

ツアーコンシェルジュの選抜と育成

 3名のコンシェルジュ(ツアーのおもてなしスタッフ)を地元の若者から選抜し、コロンボで接客技術向上、英語習得などの各種研修を実施しました。また、長屋のプレオープン期間(研修生の実地訓練期間)には、関係者に実際に宿泊してもらい、長屋でのおもてなし、ツアー案内の実践を行いました。さらに他の長屋住民からのツアー時の協力も得るべく、ツーリズムサポーター制度も整備しました。

地域ツーリズムの拠点としての活用開始

 基礎的なツアー受け入れ準備ができたことを受けて、スリランカで海外からの観光客を専門に扱っている旅行会社(Manjula Tours、Alpha Travels & Holidaysへ顧客確保に向けて広報活動を行いました。また、ホテル予約サイト「Booking.com」にも、掲載が承認され、2017年2月より掲載が開始されています(※コロナ感染拡大につき休止中)。

長屋改修後のメンテナンス

 ツアー受け入れを開始したものの、一般のお客様を迎えるには課題もまだ多いことから、関係者の皆様に協力してもらいながら、コンシェルジュがおもてなしの経験をより多く積めるように調整を行っています(コンシェルジュには、農業支援事業の現地コーディネートも兼務してもらい、雇用を維持しています)。
 また、長屋の改修工事終了後も、特に「屋内環境の改善(湿気への対応)」や「ドアなどの修理(動物や子どもが破壊?)」が必要になったため、日本人専門家を派遣し、追加工事を行いました。合わせて、スリランカ訪問中の学生さん、インターン研修生にも実際に現地滞在してもらい、住民との交流に加え、ツアー内容の改善(雨天時の対応、スムースな移動のためのツアー順序の選定など)についても、検討を加えました。

【プロジェクトレポート】2018年10月~2020年3月
【学生さん&滞在者レポート】2017年~
【最近の動向】海外からの観光客数の急減に伴う事業停滞

 近年、スリランカには毎年安定的な観光客数がスリランカを訪れていましたが、特に2019年4月以降、 同時多発テロ事件(2019年4月)とコロナ感染拡大(2020年3月以降)が続き、海外からの観光客数が激減しており、スリランカの観光業界は苦境が続いています。特にスリランカは外貨獲得の手段として、近年観光業にも力を入れていたため、経済面でも大きな影響を受けています。当該地域は、海外の人があまり訪れない場所であることから、外部者との接触によるコロナ感染を懸念する声もあり、一定の収束を待ってから、ツーリズム受け入れの再開をしたいと考えています。

【月別の観光客数動向】2019年4月の同時多発テロ後の観光客の急減、2020年3月以降のコロナ感染拡大による入国制限措置の影響が見て取れる

2015年~2016年 改修工事およびハード改善

○ リノベーション計画の策定と改修工事

2015年2月下旬より、日本からプロジェクトメンバー(大庭、前田)を現地に順次派遣し、長屋の改修工事を開始しました。途中、悪天候や資材不足の影響で工事が中断されましたが、2016年3月に無事改修工事が完了しました。また、明石高専の学生インターンが中心となり、長屋の屋根面に日本で設計開発された「太陽熱ボイラー」の取り付けにもチャレンジしました。

【プロジェクトレポート】2014年~2015年 改修工事開始
【関連データ】長屋改修費クラウドファンディング資料

改修工事費クラウドファンディング

 改修のデザイン案が完成し、実際の改修工事に向けた資金集めを開始。国際協力関係の活動助成金も模索する一方で、一般の市民の皆さまからもご協力も得るべく、2014年8月~2015年3月で、改修工事費用のクラウドファンディングを行いました。結果的に22名の個人・グループから294,300円の資金が集まりました。資金を提供いただいた皆様には、お礼として、長屋無料宿泊券(現地までの交通費は自腹となりますが…笑)とスリランカ名産品をお送りいたしました。これらの資金は、長屋改修工事の一部に使用されました。

2013年-2015年 現地調査~建築計画立案

○ プランテーション長屋に関する基礎調査
 2013年から2014年にかけて、長屋の実測、分布、使用実態に関する調査、住民のインタビュー調査、長屋の建築的価値の調査を実施しました。詳細については、トピック内、「旧紅茶プランテーション地域の再生にむけた長屋の保全・利活用手法に関する研究 (担当:前田)」をご覧ください。

 バウラーナ村には計12棟の長屋が現存することが確認されている。長屋は建設当初、寝室+キッチンを1住戸とし、各家族に1住戸が割り当てられていた。最も大きな長屋は10戸×2列の20戸で構成される。長屋の配置や平面構成は、紅茶農園経営者が労働者を管理・監視しやすいものが採用されたと思われる。その後、時間の経過と農園閉鎖後の状況変化により、住民による増改築が行われるようになり、現在では住民それぞれの多様な住みこなしがみられる。

1.長屋群の現況

バウラーナ村には約130年前のイギリス植民地時代に旧紅茶農園労働者の住居として建てられた長屋が群として残っており、現在もタミル人がそこに住み続けている。しかし、1980年代の紅茶農園の閉鎖以降、村の変化やさまざな事情により長屋の老朽化や滅失するもの増えてきている。

2.3つの文化の融合からなる長屋

バウラーナ村の長屋は、いわゆる「コロニアル建築」の一種であるが、130年以上に渡って住み続けられてきた結果、かつての農園労働者であるタミル人の居住の痕跡と生活文化が建築空間に色濃く映し出されているところが大きな特徴である。さらに特筆すべき点は、紅茶農園の成り立ちと歴史に由来する3つの要素がかたちとして表れている点である。

 バウラーナ村の長屋は、いわゆる「コロニアル建築」の一種であるが、130年以上に渡って住み続けられてきた結果、かつての農園労働者であるタミル人の居住の痕跡と生活文化が建築空間に色濃く映し出されているところが大きな特徴である。さらに特筆すべき点は、紅茶農園の成り立ちと歴史に由来する3つの要素がかたちとして表れている点である。

①『イギリスの技術:スチールフレーム』

 構造材として使用されているスチールフレームはその刻印から、19世紀末にイギリスで製造され、スリランカの山奥にあるバウラーナ村まで持ち込まれたものであると判断される。
②『タミル人の文化:牛糞塗りの床、漆喰塗りの壁』

 住人であるタミル人の生活は、信仰するヒンドゥー教と深く結びついており、長屋の漆喰塗りの壁や牛糞塗りの床の手入れは、宗教的儀式(お清め)の一環として日常的に行われている。
③-1 『スリランカの文化と自然:地場産の40cmの石積み壁

 壁は地場産の石積みからなり、厚さ約40cmある壁が、バウラーナ村の強い日差しから室内の空間を守っている。長屋の架構はこの石積みの壁とスチールフレームを組み合わせた混構造となっている。
 ③-2 『スリランカの文化と自然:「ヴェランダ」空間』

 

トピック

プロジェクトFacebook

【調査】旧紅茶プランテーション地域の再生にむけた長屋の保全・利活用手法に関する研究/前田 昌弘

研究の目的:“負の遺産”からの転換をめざして

 スリランカにおける紅茶プランテーション労働者(インド・タミル)の住居である長屋(ラインハウス)は、建設から100年以上が経過し、建物の老朽化が進んでいる。しかし、行政のマネジメント不足や資金不足などにより最低限の補修もままならず、一部では建物の崩壊などもみられる状況である。現地では紅茶プランテーションを植民地時代の”負の遺産”と捉える傾向もあり、長屋はその象徴的な存在である。そのため長屋は、撤去の対象となるか、あるいは大部分が放置されてきたのである。長屋の住民であるインド・タミルはイギリス植民地時代に南インドから移住してきた人々の子孫である。彼らは、スリランカの主要産業である紅茶生産を陰で支え続けてきた人々であるが、現在もスリランカの社会から孤立し、かつルーツであるインドからも遠く離れ、帰るべき故郷を失っている。そんな彼らにとって、長屋は安心して暮らせる唯一の場所であり、故郷のような場所でもある。

 近年、日本でも古い建物の価値と魅力を再評価し、現代の価値に照らして保全・利活用すること(リノベーション)が活発である。我々のプロジェクトも大きくはこのようなリノベーションの取り組みとして捉えられ、長屋建築の保全・利活用、さらには建築を通じた地域の再生を目指している。ただ、現地・スリランカでは、紅茶プランテーションの長屋を含む建築群の価値については、一部の建物(マネージャーの邸宅、紅茶加工工場など)を除いては、ほとんど認められていないというのが実情である。スリランカには国土中央の山岳地帯を中心に約400箇所の紅茶プランテーションがあると言われている。それらの中には近年の紅茶産業衰退とともに閉鎖に追い込まれているものもあり、住民の生活や地域の未来はきわめて不安定・不確実である。

 このような背景を踏まえ本研究では、NPOアプカスや地域住民とともに、旧紅茶プランテーションであるバウラーナ村において様々な調査研究や実験的プロジェクトを実施し、それらを通じて、長屋が持つ価値や長屋建築の保全・利活用の方法について明らかにすることを目的としている。そして、長屋の”負の遺産”としての側面を受け止めつつ、”正(プラス)の価値”に転換する方法を住民とともに考え、紅茶プランテーションの持続可能な再生に資する長屋の保全・利活用のモデルを提案することが最終的な目標である。

調査の内容

長屋の空間構成と住み方の実態の把握 (2013年~継続中)

バウラーナ村には計12棟の長屋が現存することが確認されている。長屋は建設当初、寝室+キッチンを1住戸とし、各家族に1住戸が割り当てられていた。最も大きな長屋は10戸×2列の20戸で構成される。長屋の配置や平面構成は、紅茶農園経営者が労働者を管理・監視しやすいものが採用されたと思われる。その後、時間の経過と農園閉鎖後の状況変化により、住民による増改築が行われるようになり、現在では住民それぞれの多様な住みこなしがみられる。建物の調査や住民へのヒアリングを通じて、現状では主に以下のようなことがわかっている。

  • 住民の手により増改築や間取りの変更が行われており、長屋は住民の生活にとって重要な場であり続けている様子が伺えた。増改築の内容としては、ベランダ空間の屋内化、建物前面部への部屋の増築、背面部への台所の増築などがある。また、空き家となった隣戸の権利を入手し、複数住戸を一つの住戸とするような増改築も行われている。
  • 長屋住民は村内で畑作や乳牛飼育などを行い、自給自足的な暮らしを送っている。一方、特に若者の中には仕事を求めて近くの街やコロンボ、海外に出稼ぎに行く者も多い。彼らは村に家族を残し、数週間から数ヶ月、特には数年単位で村の内外を行き来する生活を送っている。そのため、村に常時滞在しているのは主に老人や女性、子供である。
  • 長屋の建物表層のメンテナンス(漆喰による壁塗り、牛糞による土間塗り)が頻繁に行われている。これらの行為はタミル人の信仰であるヒンドゥー教による清めの儀式でもあり、タミル人の信仰と文化が建物に形となって投影されている。一方、トタンによる屋根や建物躯体(石造りの壁、スチールによる屋根フレームなど)の補修は資金不足により住民の手で行うことが難しく、老朽化・破損が目立つ。
バウラーナ村の航空写真:長屋を含む、紅茶プランテーション関連の建物跡が点在している。
ある長屋の平面実測図:長い時間経過の中で増改築や間取りの変更が行われ、住民それぞれの多様な”住みこなし”が行われている。

 バウラーナの長屋は、イギリスが持ち込んだ当時希少なスチールフレームを用いた構法が見られるなど、歴史的、建築的にその価値は大きいと言えるものの、その魅力が埋もれてしまっているのが現状でした。再生にあたっては、なるべく元の長屋の形を再現しつつ、埋もれてしまっている長屋の魅力を引き出し、住人の現在の生活環境にも目を向けられるようなデザインを加えて、ゲストハウスに訪れた人たちに長屋を体験し、感じてもらうことを目的として計画を行いました。
 

長屋再生実験 (2014年~継続中)
  • (1)再生計画の提案・実施(2014年~2016年)

長屋の建物の実測調査や居住者へのヒアリング調査などをもとに、居住者が現在も暮らす長屋1棟の一部をゲストハウスとして改修する計画を提案・実施した。このゲストハウスは、バウラーナ村を訪れた外部の人々が村の生活を体験しながら紅茶プランテーションの歴史や文化について学ぶための拠点である。長屋居住者や村の住民にとっては、ゲストハウスでのもてなしや体験プログラムの提供などを通じて現金収入が得られ、新たな就業機会となることも期待されている。ゲストハウスの運営は2016年4月にスタートしており、長屋再生の効果を検証することを目的とした以下の調査も行っている。

  • (2)検証1 環境的サステナビリティ(2016年~継続中)

長屋の建物にはいくつかの特徴的な構成要素(石積みの分厚い壁、スチールの屋根フレーム、漆喰塗り壁・牛糞土間)があり、それらは歴史的・文化的な価値に加え、建物の長期持続という観点からみても価値があると考えられる。そこで、構成要素ごとに環境工学的な性能やメンテナンス・構法上の利点(適正技術、資源循環)を明らかにすることで、長屋の環境的サステナビリティを総合的に評価する。また、新たに導入した環境技術(太陽熱ボイラー)の導入手法と効果についても検証する。

  • (3)検証2 社会的サステナビリティ(2016年~継続中)  

長屋を含む紅茶プランテーションはその成り立ちや歴史に由来して、物理的・社会的に閉鎖的な環境であり、住民は外部者との接触や交流に慣れていない。住民と外部者の交流をこれから活発化していく上で、長屋居住者のプライバシー確保と村人の生活への影響に対する配慮は欠かせない。そこで、再生長屋について、ゲストハウスと既存の住居が隣接する空間の使われ方や、居住者および長屋滞在者による評価について明らかにし、長屋の社会的サステナビリティ(住民の生活と外部との交流の両立)について評価する予定である。

シナリオ・マトリクス:旧紅茶プランテーションを取り巻く不確実性を考慮して複数の将来シナリオを作成。不確実な変化にも柔軟できる、段階的な整備計画としている。
シナリオと長屋再生計画の関係:作成した4つのシナリオを踏まえて、適当な長屋改修手法を選択している(今回採用したのはパタンC)。

*なお、本研究およびプロジェクトは、一般からの寄付および下記の団体からの助成金を受けて実施している。

公益財団法人 LIXIL住生活財団 公益財団法人 大林財団 公益財団法人 旭硝子財団

【再生計画】生き続けるためのデザインー織り重なる歴史の新たな1歩としてー/大庭 徹

埋もれた魅力を最大限に引き出す

バウラーナの長屋は、イギリスが持ち込んだ当時希少なスチールフレームを用いた構法が見られるなど、歴史的、建築的にその価値は大きいと言えるものの、その魅力が埋もれてしまっているのが現状です。

再生にあたっては、なるべく元の長屋の形を再現しつつ、埋もれてしまっている長屋の魅力を引き出し、住人の現在の生活環境にも目を向けられるようなデザインを加えて、ゲストハウスに訪れた人たちに長屋を体験し、感じてもらうことを目的として計画を行っています。

長屋は元々430㎡程度の平屋で、現在も住人によって住まわれていますが、スチールフレームを残して約1/3の部分が取り壊されてしまった経緯があり、その取り壊された範囲を再生します

計画案のテーマ

再生設計おいては以下の3点をテーマとして、計画の作成を行っています。

1.予算・施工・建材の調達等についての実現性を考慮し、現存する長屋と同等の建材・工法で建設可能な建物とする(特殊な建材、高度な技術を必要としない建物)

2.現存するスチールフレームや壁はできる限り壊さずに利用する。

3.埋もれてしまっている長屋の魅力を引き出し、宿泊した人に感じてもらうことを目的とする。

計画案

 【リノベーションの方針】
埋もれてしまっている長屋の魅力を引き出す再生

○Stone Corridor-石積みの廊下-
・「石積み」、「トタン屋根」、「スチールフレーム」という この長屋を特徴付ける要素を凝縮させた空間
・この長屋が辿ってきた時間を垣間見られる断層のような 空間装置
○性格の異なる二つの「Veranda-ベランダ-」
・Veranda-1:長屋を竣工当時の姿へ復元→ [ 歴史を振り返る ]
・Veranda-2:現在のタミル人の生業の松林に目を向ける→[今を見つめる ]

Stone Corridor: スチールフレーム、石積み、牛糞塗りの床、という長屋の特徴的要素を再構成してつくられた空間

関連資料

再生計画案(2014年9月版/PDF形式)

対象長屋 現況実測図&写真(2014年3月調査/PDF形式)