【記事】予備軍が34か国も? 途上国に迫るデフォルト 危機の根源は? / NHK

2023.11.17

https://www3.nhk.or.jp/news/special/international_news_navi/articles/feature/2023/11/17/35934.html

予備軍が34か国も? 途上国に迫るデフォルト 危機の根源は?

「我々は、借金をし過ぎてしまった」
「先進国の金利が上昇したとたん、投資家たちは一斉に資金を引き揚げた」

借金の返済が困難になり、デフォルト=債務不履行に陥った南アジア・スリランカの大統領やアフリカ・ガーナの政府高官の言葉です。

今、国家レベルで借金が膨らんでしまうケースが相次いでいます。34の国がデフォルトの予備軍とみられている厳しい状況です。

ひとたびデフォルトに陥れば、国の経済は困窮し、庶民が苦しむことになります。
危機の根源は何なのか、どうすれば回避できるのか。

債務危機の本質に迫ります。

(NHKスペシャル取材班)

※この内容は11月19日(日)放送のNHKスペシャルでも詳しく取り上げました。

NHKスペシャル「混迷の世紀 第13回 世界”債務危機”は止められるか」

NHKプラスの見逃し配信へ [配信期限:11/26(日) 午後9:49 まで]

日本の大手ゼネコンも撤退

地面に放置され、さび付いた鋼材。ここはスリランカの最大都市コロンボ近郊の国際空港。JICA=国際協力機構が日本のODA=政府開発援助で、およそ740億円をかけて日本企業と手がけていた拡張工事が中断していました。

JICA スリランカ事務所 山田哲也所長

「スリランカがお金を返しませんという風に宣言して、実際に支払いが止められてしまったのでその影響は甚大です」

デフォルト=債務不履行に陥ったスリランカ。工事を請け負っていた日本の大手ゼネコンはこの事業からすでに撤退しました。

日本政府が税金を使ってスリランカに援助で融資する資金の総額は、あわせて2500億円以上で、影響が懸念されています。

5兆円超の負債をかかえてデフォルト

インドの南、インド洋に浮かぶ島国、スリランカは輸入に依存し、経常赤字が続く弱い経済基盤でしたが、新型コロナによる観光収入の減少や、ロシアによるウクライナ侵攻の影響で食料やエネルギー価格などが高騰。急激なインフレと通貨安に見舞われ、外国からの借金が返せなくなって2022年4月にデフォルトに陥りました。

大統領公邸を占拠した人々 2022年7月

2022年7月には、困窮した国民が大統領公邸などを占拠。当時の大統領が国外に逃亡するなど、激しい混乱に陥りました。全体の負債総額は360億ドル、およそ5兆4000億円にのぼっていますが、返済のめどはたっていません。

膨らむ借金 増えるデフォルト

こうした途上国の借金は増加傾向にあります。世界銀行によりますと、世界の途上国が抱える借金の総額は1300兆円、10年前の2倍に達しました。

2023年8月末時点でデフォルトした国は少なくとも3か国。(ガーナ、ザンビア、スリランカ)

 そしてIMF=国際通貨基金によりますと、世界の低所得国70か国のうち、デフォルトしたガーナ・ザンビアを除いた8か国が過剰債務で、26か国が過剰債務に陥るリスクが高いとしています。デフォルト予備軍は34か国に及ぶというのです。

※過剰債務=債務返済に支障をきたしている状態

インフレと利上げが要因

なぜ、途上国は借金を重ねてしまい、デフォルトリスクにさらされているのか。複数の要因が複雑にからみあっていますが、先進国の記録的なインフレと、インフレを抑えこむための急速な利上げが大きな要因となっています。

FRB パウエル議長(左)とECB ラガルド総裁(右)

アメリカでは、インフレを抑え込むため、FRB=連邦準備制度理事会が2022年3月にゼロ金利を解除して金融引き締めに転換。結局、23年7月まであわせて11回の利上げを実施してきました。政策金利は22年ぶりの水準となる5.25%~5.5%に到達しています。ヨーロッパ中央銀行も同じようにインフレを抑え込もうと22年7月から利上げを開始しました。

欧米の先進国による金融引き締めによって投資マネーは縮小に向かい、新興国や途上国から資金を引きあげる動きが広がりました。また、高い利回りが見込めるドルやユーロが買われ、途上国は通貨安に見舞われます。

これによってドルやユーロ建ての途上国債務が膨れ上がる形になりました。

途上国の政府・中央銀行は自国の通貨安を防衛しようと、ドル売りの為替介入を行いますが、この流れは止まらず、外貨準備が大幅に減少して、さらに対外債務の返済が難しくなる悪循環に陥りました。

デフォルトの波はアフリカにも

ガーナ・アクラの市街地(2023年9月)

先進国の利上げの影響をもろに受けてデフォルトに陥ったのが西アフリカのガーナです。2022年12月に対外債務の支払いを一時停止することを発表しました。

害虫被害にあったカカオの実

ガーナはチョコレートの原料になるカカオの生産地として知られています。

取材班がカカオ農家を訪れると、デフォルトの余波とみられる事態が起きていました。政府が毎年、数回行っていた農薬の散布が、ことしは一度も行われていないといいます。このため、害虫の被害を受けて出荷できないカカオが増えているというのです。

雇用にも影響が・・・

財政再建のため政府が予算を切り詰めていることで、人々の雇用にも影響が出ています。公立病院などで看護師を採用することができず、看護学校を卒業しても仕事が得られない人が多くいるのです。

シングルマザーとして9歳の息子を育てるコンフォート・ダジ-さん(34)は、知人に借金をして3年間かけて看護学校を卒業しましたが、その後1年近く経っても仕事に就くことができていません。たまに入るハウスクリーニングの仕事で、なんとか子どもを育てていると言います。

コンフォート・ダジ-さん
「学校を卒業したら仕事が得られるはずでした。私の上級生もまだ仕事を得られていません。子どもを育てなければならないのに、働くことができず、とてもがっかりしています。」

緩和マネーが危機の火種に

ガーナでの取材を深めていくと、デフォルトにいたる別の要因も見つかりました。
それは、緩和マネーの力です。

ガーナはカカオだけでなく、金やダイヤモンドなどの鉱物資源も豊富で、政治的にも安定していたことから、経済成長が期待できる国として注目されていました。

国の信用を背景にガーナ政府が2007年に発行を始めたのがドル建ての国債でした。

翌2008年。リーマンショックが起きて、欧米は大規模な金融緩和に踏み切りました。

すると投資マネーがガーナに流れ込みます。

2012年にアメリカが追加の金融緩和策の実施を表明すると、利回りの高いガーナ国債は金融市場で人気となります。多い年はその額は20億ドルに達しました。

金融市場でガーナの国債がいかに魅力的だったかを、実際ガーナ国債に投資した投資ファンドの調査部門トップが語りました。

投資ファンド「アシュモア グループ」 グスタボ・マデイロス氏
「ガーナは10%近い利回りを得られた非常にいい例だった。多くの国でマイナス金利やゼロ金利が適用されるなか、非常に魅力的だった」

しかし、緩和マネーの負の側面が突如、訪れます。

2022年以降の利上げによって世界のマネーは一気に逆流。通貨は暴落し、債務の利払いは膨張。22年は21億ドルもの資金が外国に流出し、借金の返済ができなくなってしまったのです。

ガーナの財務省幹部は、マネーの激流のなかで、なすすべはなかったと語りました。

ガーナ財務省 イドリス局長

「先進国の金利が上昇した途端、投資家達は一斉に資金を引き揚げた。
それが私たちにどんな影響を与えるかはお構いなしだ。私たちの資金源がしぼんでしまったのだ」

「二日酔いという副作用が」

シカゴ大学 ラグラム・ラジャン教授

緩和マネーの魔力に警鐘を鳴らす人物がいます。インドの中央銀行総裁を務めた経歴をもつシカゴ大学のラグラム・ラジャン教授です。

教授は金融緩和の副作用に世界はもっと目を向けるべきだったと指摘します。

ラジャン教授
「金融緩和の時期には、『状況は良くなっていくだろうから、今こそお金を借りよう』と思うものだ。しかし、本当はそのときにこそ、最大限の注意が必要だ。自分の持っている服に合わせてコートを仕立てるように、慎重に自分の国の借り入れ能力や返済能力を検討するべきなのだ。
なぜなら、金融緩和のあとには、必ず『二日酔い』という名の副作用がやってくるから。その副作用はますます大きくなってくる」

増え続ける緩和マネー

緩和マネーの量は増え続けています。

リーマンショックが起きた2008年、アメリカ、ユーロ圏、日本のマネーの供給量はあわせておよそ4兆ドルでした。その後起きたユーロ危機が収束したあとも経済の下支えが必要だとして中央銀行のマネー供給量は増え続けました。新型コロナの感染拡大という危機対応で金融緩和は一気に増加し、2022年にはリーマンショック時の6倍を超える25兆ドルにまで膨らんでいたのです。

これがインフレを引き起こす要因の1つとなり、そして急速な利上げをせざるをえない状況を作り出していったのです。

デフォルト国の現実

スリランカ・コロンボ (2023年8月)

デフォルトから1年半が過ぎたスリランカ。今も経済危機は続いています。生活必需品が不足し、物価水準も高い状態で推移しています。2021年に13%だったスリランカの貧困率は、2023年には2倍以上の28%近くになると予測されています。(世界銀行の推計)

ラナートゥーンさん一家

最大都市コロンボ近郊で暮らす8人家族のラナートゥーンさん一家を訪ねました。

部屋に入ると、明かりはなく、暗がりの中で食事をしていました。

この1年で電気料金が大幅に値上がりしたため、電気はほとんど使わなくなったといいます。この日の昼食のカレーの具は、かぼちゃだけ。何も入れられない日もあるといいます。

90歳の祖母は、けがをした足の治療のためにこれまで公立病院から無料で薬をもらっていました。

しかし、今は医薬品のほとんどが輸入不足で、薬がもらえずに苦しんでいます。

IMFは手を差し伸べるも・・・

IMF本部(アメリカ・ワシントン)

こうした債務危機に陥った国を支援する役割を担うのがIMFです。

IMFはスリランカへの緊急融資を決め、段階的に実行する方針です。

その前提となるのが、スリランカの財政改革です。スリランカは、世界で最も税率が低い国の1つ。2019年にはさらに税金が引き下げられたことで、歳入が大幅に不足し、新型コロナの感染拡大などのショックに対応できなかったことがデフォルトの最大の要因となりました。

このためIMFは、スリランカ政府に対し、財政基盤を強化する必要があるとして、税収を日本円で1兆3000億余り確保するよう求めています。(2023年GDP推計ベース)

ピーター・ブロイヤー氏

IMFスリランカ担当 交渉責任者 ピーター・ブロイヤー氏
「スリランカが再建するためには、危機を招いた原因に対処しなければならない。歳出と歳入のギャップを縮めるために税収を増やす必要がある。スリランカ国内では痛みを伴うことだが、必要な改革だ」

一方、IMFから改革を迫られるスリランカ政府でも財政基盤強化の方法が話し合われていました。これまでに日本の消費税にあたる付加価値税を8%から15%に、電気料金を2倍以上に値上げしましたが、それでもまだ道半ばです。

スリランカ ウィクラマシンハ大統領

スリランカ ウィクラマシンハ大統領
「スリランカは借りすぎたのだ。経済危機は身から出たさびだ。国家の状況を見極めながら経済発展の舵とりをすべきだった。対外債務の問題を解決しないと私たちは新たな形の植民地主義に逆戻りしてしまう」

一方、国民からは、IMFが政府に求める財政改革によって生活が困窮すると猛反発が広がっています。

反IMFデモ(スリランカ・コロンボ 2023年8月)

分断を生み出す難題 どうするか

先進国の危機打開のための金融緩和が発端となってマネーがあふれかえり、インフレと利上げによって資金が急速に逆流する時代。

先進国の金融政策に振り回され、しわ寄せがくるのはいつも途上国です。どうすれば世界はともに成長を享受できるのか。どうすれば格差や分断を最小限にした社会が実現するのか。

ラジャン教授が寄稿した記事

ラジャン教授が2023年3月にIMFに寄稿した記事のタイトルはLess is More、日本語で「過ぎたるは及ばざるが如し」となっています。中央銀行は任務が肥大化しているので、政策の焦点を絞り、介入の度合いを弱めるべきだと説いています。

お金を供給する方も、借りる方も「過ぎたるは及ばざるが如し」、これが危機回避のための答えに近づく学びなのかもしれません。

中国流“金融道”の実態 「債務のわな」よりはるかに巧妙か

「中国は返済リスクを軽減する独自の方法をもっている」
こう語るのは中国の途上国向け融資を長年、研究してきたアメリカの専門家です。
中国は一帯一路構想のもと、投融資をパッケージにして途上国でのインフラ開発を進めてきました。
中には多額の債務を返済できず、港湾施設などの権益譲渡を迫られる「債務のわな」に陥ったと言われる国も出てきました。しかし、中国の融資の実態は「債務のわな」より、はるかに巧妙だと指摘する衝撃のリポートが公表されました。チャイナマネーの知られざる側面を読み解きます。

(ワシントン支局記者 小田島拓也 / 中国総局記者 下村直人)

※この内容は11月19日(日)放送のNHKスペシャルでも詳しく取り上げました。

NHKスペシャル「混迷の世紀 第13回 世界”債務危機”は止められるか」

NHKプラスの見逃し配信へ [配信期限:11/26(日) 午後9:49 まで]

プロ集団が徹底分析

アメリカ南部バージニア州にある名門公立大学、ウィリアム・アンド・メアリー校。この大学に拠点を置く研究所が「エイドデータ」です。

ウィリアム・アンド・メアリー校(アメリカ バージニア州)

エコノミストや政治学者、地理学者にプログラマーなどさまざまな専門家が集まり、詳細なデータを収集して政策や投資の影響を分析しています。

2023年11月6日、エイドデータ研究所は中国による途上国への融資の実態を分析した最新の報告書を公表しました。

中国融資 アメリカを上回る

チームを率いるブラッド・パークス所長はグローバル経済における中国融資の存在感が桁外れに大きいと指摘します。

エイドデータ研究所 ブラッド・パークス所長

パークス所長
「中国は毎年、低・中所得国に750億から1000億ドルの融資をしており、融資総額はアメリカをも上回る世界最大の公的債権者なのだ」

調査対象は、中国が22年間にわたって165の低中所得国に融資などを行ってきた2万を超えるプロジェクト。途上国が中国と結んだ融資の契約書や途上国の政府高官など数千人への聞き取りをもとに、およそ400ページにわたってその実態を克明に記しています。

エイドデータ研究所が作成した報告書

素早い融資 西側を凌駕

まず、明らかになったのは、中国による融資の規模とスピードです。世界銀行や西側諸国は、これまで多くの途上国が債務危機に陥り、救済策として借金の棒引きを行った経験を踏まえ、途上国融資に慎重になっていたといいます。

一方の中国は、その穴を埋めるように、外貨準備として抱える巨額のドル資金をもとに、大規模な融資を素早く行ってきました。融資の審査で、「お役所仕事」や「面倒な手間」をできるだけ省いて迅速なプロジェクトの実行を支援。

このため、中国が資金を提供したインフラ事業は、平均わずか2.7年で完了したというのです。世界銀行などが融資した同様のプロジェクトは完了までに通常、5年から10年掛かっていて、その優位性は一目瞭然です。

短期間でインフラを整備でき、経済成長や国民からの支持拡大につながるインフラ事業の実現は、途上国の政権にとっては、渡りに船。エイドデータ研究所が行った聞き取り調査では、途上国の政府高官などが、インフラ事業への中国の協力を強く希望している実態が浮き彫りになったとしています。

中国からの支援を受けて建設された ラオスと中国を結ぶ鉄道

世界最大の債権国にのぼり詰めた中国が直面した現実

中国はこうして世界最大の債権国にのぼり詰め、途上国への融資の残高は、元本だけで少なくとも1兆1000億ドル、日本円でおよそ165兆円に達しています。

しかし、待っていたのは、途上国の返済が滞るという現実でした。全体の融資のうち、55%が2023年には返済期限を迎え、その割合は2030年には75%にのぼるとも推計されます。期限を迎えても返済が滞る額は急増したといいます。

スピード融資の代償として、貸した金が返ってこないという、深刻な事態に直面しているのです。

変貌する中国の融資

こうした中、今回のエイドデータ研究所が明らかにしたのは、巨額の融資を行いながら返済が滞った“失敗”を教訓に、中国が危機管理能力を高め、融資のあり方を根本から変貌させた姿です。

① 秘密の専用口座を設定

その手段の1つとして、2国間の融資で、中国が途上国と秘密裏に結ぶ独自の契約が判明しました。融資の返済が滞った場合、中国だけが途上国の専用口座から担保の現金を強制的に引き出せる契約になっていたというのです。すべての債権者の中で中国が優先して返済を受けるためです。

この専用口座には、融資額全体の5%から10%が預金されていますが、中国が一度引き出してしまえば、預金が底をついてしまいます。そこで、中国はバックアップ口座を用意。預金がなくなった場合には、途上国のインフラ事業から生み出される収益が入るバックアップ口座から、自動的に専用口座へ現金が補填ほてんされる仕組みだというのです。

② 罰則金利 3倍近くに引き上げ

また、返済が遅れた国への罰則を強化していて、2017年までの4年間は上限が3%だったのに対して、2021年までの4年間は8.7%と、3倍近くに引きあげていたということです。

債務の返済が滞ったことを理由に 99年間の運営権が中国企業に譲渡されたスリランカの港湾施設

中国の途上国への融資をめぐっては、多額の債務を返済できない場合、港湾施設など重要なインフラの権益の譲渡を迫る「債務のわな」がよく指摘されますが、こうしたインフラ施設は、実はすぐに現金化するのが難しい流動性が低い資産です。

今回、明らかになった専用口座の存在と、バックアップで現金が補填ほてんされる仕組みは、中国が融資の回収を確実にできるという点において、債務のわなより、はるかに巧妙だと研究所は指摘しています。

パークス所長
「途上国が一度債務の返済を滞らせれば、今後も同じことが繰り返されることは容易に想像がつく。そこで、中国は、期日通りの返済を確保しているのだ。巧妙で洗練されたさまざまな防御網をはりめぐらしている」

こうした契約の実態をエイドデータ研究所は主に途上国の財務省の債務情報から突き止めたとしていますが、契約には厳密な守秘義務があるためほかの債権国には分からないようになっていると指摘しています。

中国側からすれば“正論”

一方、中国側からすれば、経済成長を支援するため、資金が欲しい国に迅速に出すこと、そして拠出が早い分、金利を高めに設定したり、遅れた場合には罰則金利を取ったりしていることの何が問題なのかと言いたいかもしれません。自国優先で債務の返済をさせているとすれば透明性の観点から問題だと思いますが、確実に資金を回収できるよう、契約に基づき専用口座を設けているのは、金を貸す側の論理でいえば”正論”ではないかとの見方もあります。

中国政府のアドバイザーを務めるシンクタンクの王輝耀理事長は次のように述べました。

シンクタンク「全球化智庫」王輝耀 理事長

王 理事長
「一帯一路プロジェクトは、共同協議と共同建設であり、中国とプロジェクトを進める国の双方が協議し、合意して署名したもので、誰かが強制したというものではない。中には、個別のプロジェクトで、計画が野心的すぎた可能性があるものもあるかもしれないが、これは非常にまれな現象であり、一帯一路は、大多数の途上国から歓迎されている。中国に対する国際社会の理解は不十分で、少し誇張され、誤った判断があると感じる。一帯一路は、中国のイニシアチブであると同時に、世界が共有すべき公共財だ」

なし崩しになる平等の原則

多くの債権者が関わる途上国の債務問題の解決にあたっては、交渉の過程を透明にし、すべての関係者が同じ条件で債務負担の軽減に取り組むことが不可欠です。

実際、2020年11月、中国も加盟するG20は、すべての債権国が同等の条件で債務の再編に応じ、公平に負担を分担することで原則合意しました。

オンライン形式で開催されたG20サミット(2020年11月)

しかし、今回の報告書で浮かび上がったのは、中国が単独で進める戦略でした。

パークス所長
「欧米各国は、債務危機をできるだけ早く解決しようと中国に協調を呼びかけているが馬の耳に念仏だ。中国政府は『我が道をいく』ことでこの危機を乗り越えようとしている」

債務を再編する交渉への参加にあたっては債権者が平等な立場であるとの保証がない限り、債権者は消極的になってしまいがちです。

一方、世界最大の債権国、中国を抜きに途上国を救済することはできないのが現実です。中国流“金融道”の姿を冷静に見極めつつ、国際機関や日本を含む先進国が粘り強く中国を巻き込み、途上国の借金を減らしていくという難題が突きつけられています。

APCAS

これらの取材の成果として、11月19日のNHKスペシャル『混迷の世紀 第13回 世界“債務危機”は止められるか』で、スリランカの債務整理を巡る日本の動きの裏側を追っていました。特に財務省の担当者の皆さんが、債権国の足並みが揃わない中、世界銀行などと共に国際協調体制を守るために昼夜問わず奮闘している姿が印象的でした(スリランカが日本に取りまとめを期待している気持ちがわかりました)。政治体制の問題のしわ寄せが、結局、普通の市民の食事や医療の問題として直撃してしまうのが切ない限りでした。
スリランカ国内は、政治的な混乱の火種は残っており、まだ長い道のりが続きそうです。やはり、議員を選ぶ選挙って大切だなとしみじみ思います。